第51章 キスミー
オレと一緒に暮らしてくれる?
それは、どんなスイーツよりも甘く
そして、ささやかな胸をときめかせてくれる恋の呪文
「もしかして、きーちゃんとなんかあった?」
「ぶほっ……」
「ふふ。それ、高尾君みたい」
あの夜から二週間。
いまだに頭から離れない記憶に浸っていた結は、噴き出しそうになるコーヒーを間一髪のところで飲み込んだ。
最近、コーヒーとの相性がどうもよくない。
「っ、桃井さん!」
「ごめんごめん。でも、なんか今日の結ちゃん、顔がゆるみっぱなしなんだもん。あ、もしかしてとうとう同棲することにしたとか?」
「な、なんで!?」
「あ。やっぱり」
桃井には逆立ちしても勝てる気がしない。
「で?」と先を促す瞳に射貫かれて、結はぶるぶると身体を震わせた。
「どどどどーせい……というか、一緒に……その、暮らそうという話が、あったりなかったり」
「あったりなかったり……って。何、それ。可笑しい」
チョコレートケーキにサクリとフォークを落とし、口に運ぶ可憐な仕草に、結は海より深い溜め息をついた。
長い髪を波打たせる豊満な胸を、ふわりとつつむセーターはまるで雪うさぎ。
男性の邪な、そして、女性の嫉妬の視線を集める桃井さつきは、今日も美少女ぶりを惜しみなく発揮していた。
「で。あったの?なかったの?」
だが、その天使のような微笑みの裏にあるスーパーコンピューター並みの解析能力は侮れない。
艶めく唇をぺろりと舐めて、返事を促すまなざしに、結は思わず姿勢を正した。
「……あ、ありました」
「ま、こうなることは分かってたけど」
「それって……分析と予測、ですか?」
「ううん、オンナの勘と希望的観測。結ちゃんには幸せになってほしいって思ってたから。勿論きーちゃんにも、ね」
穏やかな声に胸が熱くなる。
「今日はこれから待ち合わせしてるんでしょ。まぁ、返事は急がなくていいんじゃないかな。ゆっくり考えたら?」
「どうして返事をしてないことまで分かるんですか……」
「だって顔に書いてあるもん。でも、きーちゃんなら大丈夫。待っててくれると思うよ」
優しい色を浮かべる瞳に、結は「うん……」と小さなつぶやきで返事をした。