第51章 キスミー
「お、っと」
膝から崩れ落ちる身体をいとも簡単に支えてくれる腕に、結はしがみついた。
まさに藁をもすがる心境とはこの事だ。
「腰、が……抜けたかも」
「大丈夫、ずっとこうやってオレが支えてあげるから。だから……また今度、返事聞かせて?」
背中に回された腕が
頭を撫でる手が
かすかに震えているのは、きっと自分の身体が喜びで震えているせい
答えなんて聞かなくても分かっているはずなのに、やっぱりズルくて、でも。
「急がないから、ゆっくり考えて」
頬を包みこむ手に促されるまま上を向くと、ふわりと重なってくる唇を、結はふらつく足で受け入れた。
切れた唇を気遣っているのか、街灯が届かない壁に追い詰めてもなお、遠慮がちに触れるだけのキスがもどかしくて、「涼太」と名前を呼んで先を求めれば、何度も啄んでくる口の隙間からもれる吐息に視界が白くかすむ。
「コラ。ずっと我慢してんのに……止まんなくなっても知らないよ」と眉を顰める顔は、闇夜に忍び寄る夜行性の獣のように獰猛で、そして一瞬で目を、心を奪われるほどに美しかった。
「私のせい、ですか?」
「それ以外の何があるっていうんスか」
押しつけられた壁の冷たさなど忘れてしまうように、唇に触れる熱があらたな熱を生む。
「涼、太……ぁ」
「んなエロい声出して……悪いコにはお仕置きっスね」
腰に巻きつく腕で強く引き寄せられて、余裕をなくしていくキスに、唇がピリリと痛んだ。
「っ、ん」
わずかな反応に、離れようとする黄瀬の首に腕を回して、やめないでと態度で示すと、ふたたび牙をむくくちづけが口内を犯しはじめる。
彼が与えてくれる痛みすらこんなにも愛しくて、離れがたい
もっと深く
すべてを奪いつくして欲しいと願うのは
「涼、んぁ……っ」
名前を呼ぶことも許されないキスに溺れながら、結は闇夜に浮かびあがる金の髪に、指をキツく絡ませた。