第4章 スウィートハニー
部屋に突然鳴り響いた軽快な音の正体──それは枕元に置かれた携帯の着信音だった。
これで甘い拘束から解放されるはずだと、結はホッと安堵の息を吐いた。
だが、その思惑に反して、黄瀬はやわらかい胸により深く顔をうずめた。
「ま、待って……携帯、鳴ってます……んっ、あ」
「いいってば、んなの」
着信音をあっさり無視すると、黄瀬は手のひらにおさまる膨らみをまさぐり、固さを増す尖りを舌で転がしながら、何度も味わった肌に飽きることなく吸いついた。
「や、あ……駄目、お願……い」
だが、音が気になって仕方ないという様子の恋人に、黄瀬は渋々といった顔で口を離した。
「も~今イイとこなのに。誰だよ、ったく」
逃げ道を塞ぐように足を絡めながら、枕元に腕を伸ばすと邪魔な音を素早く消し去る。
「これでいいっスか?まだ、結が足りないんスよ。だから、もっとチョーダイ?」
「っ」
子犬のように潤んだ目で見つめられて、結は抗う言葉を失った。
続けて小さく鳴った音はおそらく、電話に応答しない持ち主に向けられた伝言だろう。
「じゃ、あ……確認だけ、してください。急用だったら困るので」
「ん、了解っス。えっと……あと30分くらいで帰るって」
黄瀬は画面に表示されたメッセージにチラリと目を通し、携帯を乱雑に放りなげると、「もういいよね」と中断された愛撫の続きを開始すべく、首筋に顔をうずめた。
「……え」
「これが最後ってことで」
わざと痕を残すように肌を少しキツく噛む、黄瀬の言動の意味が分からない。
「ちょ、ちょっと……あっ、帰るって何ですか?誰から、の……」
「ん?うちの母親からっスよ」
胸をやわやわと揉みながら、耳朶を甘噛みする黄瀬は、全く意に介さないように行為の継続に没頭していく。
「黄瀬さ……ちょ、っ」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。あんま時間ないけど、ちゃんと気持ちよくしてあげるから」
そう言って結の身体をひっくり返そうとした黄瀬は、「だ、駄目って言ってるじゃないですか!」とぶつけられた枕ごと、ベッド下へ無残にも落下した。