第4章 スウィートハニー
最後は残念ながら不発に終わったが、ようやく手にした二度目のチャンスを堪能した黄瀬はご機嫌だった。
反対に超不機嫌な恋人を説き伏せて、家まで送る役目を手に入れるのは苦労したが。
「もう!本当に信じられません!」
「だからゴメンってば!」
並んで歩く彼女の、覚束ない足許が心配で見ていられない。
(ちょっと無茶しすぎたかな、やっぱ)
「結。足、ふらついてるっスよ。だいじょーぶ?」
「っ、気のせい……です」
フイと背けた顔は、暗闇でも分かるほど真っ赤に染まっていて。
可愛い、なんて言ったら火に油を注ぐのは明らかだ。
黄瀬は、結の前に回り込み、「身体キツいっしょ。乗る?」と背中を見せた。
赤い顔で、頭をブンブン振って拒絶する恋人の姿に、黄瀬はバレないように口の端で小さく笑った。
(あーもー、やっぱ可愛すぎ)
その肩を我慢出来ずに抱きよせる。
「オレのせいだから責任取らせてよ。それとも、お姫様だっこの方にするっスか?」
「そ、そんなの無理……っ」
必死で抵抗する結に向かって「どっちにする?」と黄瀬は顔を近付けた。
それは引くつもりはないというアピールだ。
「あ……脚に、黄瀬さんの脚に負担かけたくないからどっちもパス、なのだよ?」
「へ」
ポカンとする黄瀬をその場において、結は逃げるように歩きだした。
「なんで緑間っち……しかも疑問型ってなんスか!?」
黄瀬は、爆笑しながらその背中を追いかけると、強引に彼女を背負った。
「わっ!?自分で歩けます!降ろしてくださ……っ」
「じっとしてて。暴れると脚が余計に……」
「ぐっ」
大人しくなった彼女が、自分の首にそろそろと腕をまきつけてくるのが可笑しくて……でも、愛しくてたまらない。
さっき抱いたばかりなのに、また欲しくなる。
(……重症だな、オレ)
「ねぇ、結」
「ごめんなさい、やっぱり重……」
「今日は、何が一番気持ち良かったっスか?やっぱ正常位がフツーに悦かった?それとも……」
「──は、い?」
「今後の参考に聞いておきたいな〜と思っ……」
最後まで言うことは叶わなかった。
後ろから耳をガブリと噛まれ、黄瀬は道の真ん中で悲鳴をあげた。
「痛ってぇーーーーっ!!」