第48章 オンリーワン
強くなりはじめた雨が、音を立てて傘を打つ。
木吉は、遠くに見えはじめた大学の校舎に、自然と口許を綻ばせた。
(最近会ってないが、元気にしてるだろうか)
彼女とは、今もいい友人関係を続けている。
胸がまったく痛まないかといえば、それは嘘になるが、一番大切なものは彼女の笑顔であり、一番の望みは彼女の幸せだ。
「こっちのキャンパス来るの、久しぶりなんですよ。どこに行けばいいんでしたっけ?」
「確か正門から入って……ん?ちょっと待ってや」
携帯を手に取り、画面を見つめる今吉の瞳が鋭い光を放つ。
「なんやエライ騒ぎになっとるみたいやで。お前、水原さんの連絡先知っとるか?」
「は、い?何ですか、急に……って、彼女に何か」
顔色を変える木吉に向かって、今吉はまあまあと落ち着かせるように手を振った。
「ちゃうちゃう。水原さんになんかあったわけやのうて、問題はあっちの方や」
今吉の指す方向に目線を送った木吉は、いつも穏やかな曲線を描く眉を、ぴくりと引き攣らせた。
本格的に降ってきた雨の中、通行人の邪魔をするように幾重にも重なる色とりどりの傘。
その中心で、遠目から見ても存在感を放つのは、見覚えのある──というよりも、忘れられない髪色のスラリとした長身だった。
「あんなとこで、何して……」
ただでさえ目立つ容姿に加え、『人気モデル』という看板。
その黄瀬涼太の彼女というだけで、どれだけ好奇や嫉妬の目に晒されることになるのか、彼は知らないのだろうか。
いや、そんなはずはない。
少なくとも自分が知る『黄瀬涼太』というオトコは、そんな浅はかな人間ではなかった。
(黄瀬なら……アイツになら結を任せられる。そう思ったから俺は)
コート上で感じたバスケへの情熱は本物だった。
そして、彼女への想いも。