第48章 オンリーワン
「ちょっと結、どうしたの?その顔!」
「昨日、徹夜でレポート仕上げてたから」
今日は一体、何度同じ嘘をつけばいいのだろう。
切れた唇が、昨夜の出来事が夢ではないことを知らしめるように、ヒリヒリと痛む。
腫れたまぶたを隠そうと前髪をいじりながら、結はいつも以上に眠気を誘う教授の声をうわの空で聞いていた。
講義中はいつもカバンに放り込んでいる携帯を、上着のポケットに入れているせいで右肩が少し重い。
『昨日は本当にゴメン
ちゃんと会って話がしたい
今日は何時に終わる?』
朝早くに送られてきたメッセージ。
顔文字のない文章を思い出すだけで、胸が抉られるように痛んだ。
肌に残る内出血の痕跡を隠すために選んだ、高い襟のシャツが息苦しい。
「ふぅ……」
溜め息とともについ考えてしまうのは、彼のことばかり。
昨夜は、ちゃんと寝られただろうか。
今は授業中?
(居眠りして、怒られてないといいけど……)
そんなことを思う自分に小さく息を吐くと、結はふと窓に顔をむけた。
ポツポツとガラスを濡らし始める雨のしずくに、もう涸れたと思っていた涙が目の奥から込みあげる。
だが、固く閉じた瞼の裏に浮かぶ面影は、いくら頭を振っても消えることはなかった。