第48章 オンリーワン
あれからどうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
母親が何か言っていた気もするが、何ひとつ耳には入ってこなかった。
機械的に着替え、寝る準備を淡々と済ませる。
滑りこんだベッドの中、どこまでも沈んでいくような喪失感がまとわりついて、全身が強ばる。
黄瀬は、震える指で左耳のピアスにそっと触れた。
will always love
「ずっと……愛してる」
刻まれた言葉を、こうしてひとり、何度口にしただろう。
(オレも誓える。ずっと彼女だけを愛するって……オレには結しかいないんだってこと)
だが今は、その言葉を彼女に届けることすら叶わない。
「う、っ……」
夜に怯える子供のように身体を丸めると、黄瀬は口からこぼれる声を懸命に押し殺した。
ピピ──
朝を告げる電子音を一瞬で黙らせる。
こんな時でも夜は明けるのだという現実に打ちひしがれながら、黄瀬は寝不足の頭で寝返りを打った。
左腕が、冷たいシーツの上をむなしく滑る。
のそりとベッドから身体を起こすと、手にした目覚まし時計を黄瀬は床に叩きつけた。
脱ぎ散らかした服の上に落ちたせいか、派手な音こそなかったものの、それが明日から使い物にならないことは明らかだった。
「ガッコ……行かなきゃ」
いつでも出られるようにと、枕元に置いた携帯は、朝までひとり静かに眠り続けたままだった。
スライドし、待ち受けにしている笑顔が目にしみる。
連絡先の一番上にある名前にそっと触れて、『おはよ』と打とうとする指がうまく動かない。
「クソ、っ……」
黄瀬は、もつれた髪を乱暴に掻きむしると、携帯を額に押し当てた。