第48章 オンリーワン
ウィンターカップに向けて、練習に熱が入る青の精鋭達。
「きっつ……コレ」
新しい練習メニューに肩で息をしながら、体育館にいることが当たり前になったマネージャー兼恋人の姿をこっそりと盗み見る。
ノートに何かを書き込む真剣な顔に、見とれること数秒。
頬を伝う汗を練習用のシャツで拭い、「うっし!もう一本!」と気合いの入ったキャプテンの声に、「ハイっ!」と応える声が体育館に響き渡る。
このメニューを作るため、裏で彼女がどれだけの時間を割いてくれているのか、知る者は多くない。
部員の体調管理や、各個の弱点を克服するためのトレーニング方法を調べるため、睡眠時間を削っているということも。
『結ちゃん、ずいぶん無理してるんじゃないかな。気をつけてあげてね、きーちゃん』
夏以降、もともと得意ではない戦術の勉強まで始めていることは、桃井から連絡がくるまで黄瀬も気づくことは出来なかった。
少しの息抜きにでもなればと誘った映画で、ぐっすりと眠ってしまった小さな頭の重みは記憶にまだ新しい。
見えないところで
気づかないところで
一体どれほど彼女に支えられているのだろう。
(ホント……結には敵わないっスわ)
強くなりたい。
バスケでも、そしてオトコとしても。
誰にも、もう何も言わせない強さが欲しい。
こんなにも何かを欲する情熱が自分にもあることを教えてくれた、たった一人の女性のために。
「有難う、結ちゃん。その言葉を聞いて安心したわ。それはバスケに打ち込んでる者として最高の褒め言葉だと思うんだけど、恋人としての涼太はどうなの?ちゃんと大切にしてもらってる?」
「え……そ、それは……その、まぁ……ハイ」
「あのコ、無茶なことしてないでしょうね」
さらりと核心をついてくる質問に、答える声はもう聞こえてはこなかった。
分かりやすく狼狽える顔を思い浮かべながら、黄瀬はブランケットを頭の上まで引き上げた。