第45章 ルージュ
「そーいえば、お兄さんと彼女さんにも会ったんスよ。物静かなオトナの女性って感じでさ。なんてゆーか……ふたりとも幸せそうで、スゲェいい雰囲気だったなぁ」
「海常バスケ部のマネージャーだったらしいですよ。少ししか話は出来なかったんですけど、聡明で、外柔内剛という言葉がぴったりな……」
「ガイジューナイ、ゴ……?」
首を傾げる黄瀬に、結は、今度は違う意味の溜め息をついた。
スポーツ推薦が受けられれば、大学への進学は難しくはないだろう。
今まで、進路について特に聞いたことはなかったが。
いや、怖くて聞けないという方が正しいのかもしれない。
黄瀬だけに限ったことではないが、あれほどの実力があれば、本場アメリカでプレイすることも決して夢物語ではないはずだ。
(もし、もしそうなったら……)
そんな不安を振り払うように、ずっと髪を梳いてくれる優しい指に、甘えるように頭を預ける。
今の黄瀬涼太の──海常の目標はただひとつ。
(今の私に出来ることは、彼の夢に寄り添い、全力で支える……それだけ)
なんて幸せで贅沢な時間。
「外柔内剛、ですよ」
いつもなら嫌味のひとつも言う場面だが、結は、まだよく分からないというように首を傾ける恋人に向かって、穏やかに笑んだ。
「外が柔らかくて中が強い。穏やかそうな外見に反して、自分の強い意志を持っている……という意味ですよ」
「あのお兄さんを、尻に敷いてるってことっスか?」
「どうなんでしょうね。私も今日初めて会ったので、そこまでは……それより、いい加減お布団被って下さい」
目のやり場に困り果て、布団を黄瀬の身体にかけようとした結は、捕まれた手首にチュッと唇を押しつけられて、小さく息を飲んだ。