第45章 ルージュ
「海常祭、どうだった?楽しかったっスか?」
ようやく汗がひいた素肌に布団を巻きつけて、結は気怠い身体をぐったりとベッドに預けた。
いつ、彼の母親が帰ってくるのか気にしながらも、今日も深く愛された身体は、しばらく動かせそうもない。
「ん、そうですね……私がいた頃よりもパワーアップしてて、少しびっくりしましたけど、すごく楽しかったです。思いがけず笠松さんにも会えましたし」
「そこっスか」
髪を掻きあげる黄瀬の、スラリとした長い腕が不満そうにシーツを滑る。
妖艶さをまとうその腕は、だが、コートの上ではまるで別物。
自在にボールを操り、弾ける汗とともにリングを揺らす瞬間を思い出しただけで、胸が押し潰されてしまいそうだ。
仲間とハイタッチする小気味いい音。
全身からみなぎる闘争心と、不敵に輝く金の瞳。
(今日もスゴく格好よかった……けど、やっぱり青のユニフォームが一番似合う、かも)
今年のインハイの準決勝。
仲間に肩を貸す背中に涙した夏はまたたく間に過ぎ、季節は確実に次の戦いへと色を変えていく。
立ち止まっている暇はない。
「それより……下着くらい、履いてくれませんか」
「いまさら?」
情事の後の汗ばむ身体を惜しげもなくさらし、枕元に肘をついて顔を覗き込んでくる黄瀬の、上下運動を繰り返す肩が妙になまめかしい。
くっきりと浮き上がる鎖骨と、太い首に浮かぶ汗。
乱れた髪を整えるように触れてくるゴツゴツとした指に、結はほうっと溜め息をついた。