第45章 ルージュ
「ちょ、駄目ですよ。もうこんな時間……こ、こらっ」
そんな言葉など、聞く耳は持たないとでも言うように、覆いかぶさってくる身体がギシリとベッドを軋ませる。
「結は上の方がスキ?それとも下?」
「は、はひ?」
「オレ的には、下で喘ぐ色っぽい顔もスキなんだけど、上で恥ずかしそーに乱れてく感じもたまんないんスよね。他にも……」
話の展開についていけず、自由を奪われた手だけが、さらに深くシーツへと沈んでいく。
「なんでいきなりそんな話……に」
「お兄さんが尻に敷かれてるって話してたらさ、結は上と下、どっちのがイイのかな~なんてふと思ったんスよ。あ、いい顔が見れないけどバックも捨てがたいし……う~ん、深いっスね。セックスって」
「そ、そそそんな、しみじみと言うような事じゃありませんっ!」
「アレ?動揺してどーしたんスか。もしかして本命は最後のバッ……」
「……ち、チガイマスっ!」
意地悪な唇を塞ぐ手段を奪われたまま、クスクスと笑いながら顔中に落ちてくるキスに体温が上がる。
「でもやっぱ、この唇が一番スキかも。ちっちゃくて、やわらかくて……」
薄暗くなりはじめた部屋の中、深い陰影を刻みながら近づく顔は、ぞっとするほど美しい。
「触れたらさ、止まんなくなるんスよ。ホント、たまんねぇ」と艷めく声に、全身の肌がいっせいに粟立つ。
止まらなくなるのは。
止められないのは自分も同じだ。
「りょ、た……」
重なり合う身体から伝わる熱が、二回戦に備えるようにカタチを変える。
その昂りを、むしろ待ちかねていたように、すり合わせた足の奥深く、潤いはじめた蜜がとろりとシーツを濡らした。
体温で乾く唇には、口紅よりもリップクリームが必要だ。
「ね……もっかい、シてもい?」
「……私に拒否権、あるんですか?」
「拒否権?んな言葉、ベッドの中じゃ言わせないっスよ」
「じゃあ、聞かないで……ください」
「ハハ。確かに」
楽しそうに肩をゆするたび、湿気を含んだ金の髪が、ハラハラと綺麗な顔に纏わりつく。
(もう……そんな顔見せられたら、絶対に敵わないでしょ)
じわりと蠢く長い指が、手のひらをなぞり、深く指に絡みつくのを合図に、結はそっとまぶたを閉じた。
end