第44章 フェスティバル
(そーいえば、前に体育館でエッチしたことあったよな)
痕を残さないように味わった首筋からゆっくりと離れながら、黄瀬は忘れがたい記憶を反芻していた。
血が集まりはじめる下半身を落ち着かせるように腰を揺らす。
さすがに今は何の準備もしていない。
しかも、部活終わりのあの時とは違い、内側から鍵のかからない体育館でコトに至るのは、あまりにもハードルが高すぎる。
いっそ部室に連れこんで……と欲望剥きだしの思考に、黄瀬は必死でムチを打った。
(いやいや。あんなオトコ臭い場所で、結を抱けるわけないっての)
「……黄瀬、さん?」
「ハァ……ヒトの気も知らないで、ホント」
大切にしたいという気持ちに偽りはなかった。
そう思う反面、胸の奥に潜む欲望に身を任せて、壊れるほど抱いてしまいたいという狂気にも似た感情に、いつか支配されてしまう瞬間が訪れるのではないか。
恐れと期待に、ピリリと乾く唇を舌先で舐めると、黄瀬は不安そうな表情を浮かべる結の鼻先を指でつまんだ。
「ふがっ」
「ハハ。変な声」
「何するんでふか!」
「ね。一度聞いてみたかったんスけど、結は安全日って把握してる?」
「…………え」
ストレートな問いにフリーズした後、鼻のあたまと同じくらいに赤く染まった耳は、肯定の合図か否定の戸惑いか。
前者一割、後者九割。
そんなところだろうか。
「オレ、そんな節操ないことするつもりは全く無いんだけどさ。でも、んなエロい顔で誘惑されたら、いつ理性がぶっ飛ぶかワカンナイわけで」
「ゆ、誘惑とか……意味が、分かりません」
「ホントに分かんないんスか?こないだのプールのこととか、忘れたとは言わせないよ」
「っ」
「結が何してくれたのか、オレに何度抱かれたのか……言って欲しい?」
「あ、あれは……その」とパクパクと動く唇の、薄紅のルージュが艶を増す。
「だから、その顔……」