第44章 フェスティバル
「えー、とだな。その……ま、なんだ。そーいうことだ」
全く要領を得ない説明で、兄の翔から紹介されたのは、風になびくキレイな髪が印象的な女性だった。
うっすらと施された化粧と、華奢なミュールが似合うほっそりとした足。
髪の隙間から見え隠れするのはイヤリング……いや、ピアスだろうか。
(わ……大人の女性って感じ)
「はじめまして」と少し緊張気味な女性に向かって、結は深々と頭を下げた。
「はじめまして、結です。不肖の兄がいつもお世話になってます」
「おい、結。彼女に変なこと言うんじゃねーよ」
「私、別に嘘は言ってないつもりなんだけど」
「う……」
そんな兄妹の会話をにこやかに見守る女性が、海常の卒業生でバスケ部のマネージャーだったということを聞いたのは、兄を放置して女同士で話に花を咲かせた電車の中だった。
「え、結ちゃんって、あの黄瀬涼太と付き合ってるの?」
「あ、ハイ……一応」
初めて会った恋人の妹は、礼儀正しくて控えめで、素直な女のコだった。
そんな恋バナを織りまぜつつ、電車を下りて母校へと向かう道すがら、話の中心は当然ながら海常バスケ部のことばかり。
今年のインハイで全国ベスト4を成し遂げたとはいえ、全国制覇が目標の青の精鋭達には到底満足出来る結果ではないだろう。
(年はずいぶん離れてるけど、蓮二先輩のことは知ってるのかしら?)
それは勿論、モデルとしてではなく、海常バスケ部の司令塔として名を馳せた叶蓮二という男。
彼の予測不可能なプレーに、学ぶ所は多いにあるのではないか。
だが、翔がいる時にはあまり出したくない名前でもあった。
「ゴメンナサイ、呼び捨てにしちゃって。でも、そっか……」
その外見と違い、中身は意外と硬派な翔が、妹の恋人に不満そうだったのは、コレが原因だったのだ。
「シスコンめ……」
「あの……何か?」
「あ。ううん、何でもない。それにしても……懐かしいわね、この空気」
「そうですね」
迷子になりそうなほど広い敷地と、まるで学生時代にトリップしたように頬をなでる懐かしい空気。
晴天にも恵まれて、多くの人で賑わう校内に足を踏み入れた二人……もとい三人は、遠くに見える騒然とした雰囲気にその足を止めた。