第44章 フェスティバル
遠くからでも見える金の髪が、秋の陽射しの下でも変わることなくキラキラと輝く。
喧騒の中心にいる恋人の姿は、今まで何度も見てきた。
慣れ半分、諦め半分。そして、少しの嫉妬心。
「あれって、黄瀬……くん、だよね」
「ハイ。いつもあんな感じなんですよ」
斜め前を歩く兄が、こちらの様子を窺っていることに気づいて、結は努めて明るい声を出した。
仕事量は減っているとはいえ、モデルという顔を持つ以上、割り切るしかないのだ。
「……結ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。スミマセン、気を遣わせてしまって……じゃあ私はここで。色々とお話聞かせてもらって、凄く参考になりました。有難うございました」
「私も楽しかったわ。また今度ゆっくり話しましょ、お兄さん抜きで」
「ずっと俺そっちのけで話してたくせに……」
不満そうな翔に、「拗ねないの」と向けられる優しい笑顔に、少しモヤモヤしていた心が晴れる。
(私も、あんなヒトになりたいな……)
今日家に帰ったら、兄に彼女との馴れ初めを聞いてみよう。
そこにも小さなキセキがきっとあるはずだ。
「兄のこと、よろしくお願いします」
結は小さく頭を下げると、歓声に背を向けるように走り出した。
「大変ね、あんな彼を持つと」
「だから俺は反対してたんだ、あんなチャラ男……」
「でも、今は違うんでしょ?後輩としても、妹の彼氏としても、認めてるって顔に書いてあるわよ」
察しのよすぎる年上の彼女に図星をつかれて、翔は決まりが悪そうに口をつぐんだ。
「そういえば、翔くんも一年の時、執事服着てあんな風にオンナのコに囲まれてたわよね?」
「ぶはっ!」
「素敵だったわよ。一目惚れしちゃうくらいには、ね?」
「…………え?」
「さ、未来の弟クンに挨拶行かなきゃ」
「ちょっ!今すげぇ大事なことをサラッと言った気が……その話もっと詳しく!てか、未来の弟じゃねーし!」
「ホント、強情なんだから」と背中を向けた拍子に、ふわりと舞い上がる長い髪から覗く耳がほんのりと赤い。
「くそっ、一目惚れしたのは俺が先だっつーの……」
翔は口の中でつぶやくと、もどかしい気持ちの行き場を求めて、前を歩く恋人の白い手を取った。