第44章 フェスティバル
年に一度のお祭りは、 今年もおおいに盛り上がりを見せていた。
運動部が盛んな高校ならではの、パワーと活気に満ちた海常祭は有名で、近隣のみならず、遠方から訪れる人も少なくない。
定番の着ぐるみをはじめ、ゲームのキャラクターなど、様々な趣向をこらした衣装を身につけた生徒達が、クラスの宣伝にと校内をねり歩く風景は、知るひとぞ知る名物だ。
「すご~い!今年も衣装、凝ったのが多いよね」
「今年は、いかにもハロウィンです、てのが多くない?ほら、ミイラ男にオオカミ男と……あ、あれって赤ずきんちゃん?」
だが、モンスターの群れに混じる赤い頭巾の少女は、可愛らしい女子生徒ではなく、あきらかに武闘系の男子生徒。
たくましい身体を揺らしながらオオカミ男を引きずるように先導する姿に、軽快な笑いが起きる中、どこからともなく絹をさくような悲鳴があがった。
「きゃああぁーーっ!!」
「黄瀬クン!カッコいいーー!」
文化祭は、堂々と校内に入り込める絶好のチャンス。
黄瀬涼太目当てに訪れる者も当然ながら多く、宣伝用の衣装を身にまとった最高級のイケメンに、他校のみならず校内の女子生徒達の歓声が途切れることはなかった。
「どうもっス。あ、コレうちのクラスの喫茶店。よかったら休憩してってくれないっスか?」
「するするーー!」
「注文取りに来てくれるの!?」
「オレ、神出鬼没なんで約束はできないんスけど。とりあえずコレ」とチラシを手渡すと、黄瀬は恭しくお辞儀をしてみせた。
「「キャアアアアーーーーッ!!」」
自分の魅力を最大限にみせる仕草は、身に染みついた一種の職業病か、天性の才能か。
「じゃ、よろしくっス」
手を振るだけで周辺を絶叫と歓喜の渦に巻き込みながら、黄瀬は、校舎に高々と掲げられた時計をチラリと見上げた。
その針は、約束の時間が近いことを告げている。
(結が来るまでになんとかしないと……)
サインや写真をねだる女子に、営業スマイルで対応しながら、黄瀬の心は彼方へと飛んでいた。