第43章 ミッション
「いてっ」
秋の空気に染まりはじめた街並みを駅に向かってのんびりと歩きながら、黄瀬は手の甲を叩かれてキャンとひと鳴き。
「そんな恥ずかしがんなくてもいいじゃないっスか〜。久しぶりのデートなのに」
「街中はちょっと……」
肩を抱くことも、腕を組むことも拒否されたというのに、人気モデルは鼻の下を伸ばして恋人の周りをグルグルとひとまわり。
普段パンツスタイルが多い彼女の、秋色コーデのスカート姿をチラチラと盗み見る。
「その服可愛いっスね」と言いかけた言葉をかろうじて飲み込むと、黄瀬は小さな手を取り歩きだした。
「黄瀬さ……」
「ダ〜メ。手くらいは繋がせて」
「ム」
外でベタベタするのを拒むことも、服を誉めると嫌そうな顔をすることも、ただの照れ隠しであることは百も承知。
問答無用で絡めた指で、黄瀬はやわらかな手の感触を確かめた。
(あ~、気持ちい……いやいや、だからオレが癒されてどうすんだよ!)
もう一方の手で緩む頬をぴたぴたと叩くと、変装用のダテ眼鏡を指で軽く押し上げる。
「うわぁ、あのヒト格好いい。レベル高すぎ」
「どっかで見たことあるような……俳優?」
そんな周囲の声も、今の彼には雑音にすらならない。
頭の中は、口に手を当ててこっそりと欠伸を噛み殺す恋人のことで埋め尽くされているからだ。
(やっぱ疲れてんなぁ。自分のベンキョも大変なんだろうけど)
彼女の部屋にずらりと並んだ蔵書を思い浮かべた黄瀬は、青い顔でプルプルと頭を振った。