第42章 ファウル
「ハッ……それ、気持ち、い」
こんなシチュエーションは──そう、未遂に終わった誕生日をカウントしても片手に満たない。
快楽に溺れきってしまわないように浅く息を吐きながら、黄瀬はそんな記憶の糸をたぐり寄せていた。
熱い粘液に包まれているだけで十分に興奮するこの状況下で、情熱的に舌を絡ませてくる唇につい腰が揺れる。
少しでも気を抜けば、すぐに持っていかれてしまいそうだ。
「ちょ、結……待って」
「ん、ふ……いいから、もっと気持ちよく、なって……ン」
「ダ、メ……だってば」
踞って必死に手と口を動かす結の健気さと、たどたどしい舌使いに、呼吸は乱れる一方だ。
予想外に早く訪れそうな射精感をやり過ごそうと、黄瀬は下腹に強く力を込めた。
(これ、クる……かも)
乱れた髪に絡めた指にも、思わず力が入る。
「ン、はぁ……っ、結、も……口、離して」
「らめ……ぇ」
「う、わ!それ、クる……っ」
ジュッと音を立てて吸い上げられて、下半身に一気に集まる熱で膨らむ屹立を、黄瀬は間一髪というところで結の口から引き抜いた。
「はっ、く……ぅっ!」
勢いよく飛び散る欲は、幸い彼女の髪を掠める程度の被害で済んだ。
「ハッ、ハ……っ、も、少しで……はぁ、口に、出すとこだったじゃ、ないっスか……」
黄瀬は大きく肩で息をしながら、床にぺたりと座り込む結の身体を引き上げた。
「…………た、のに」
「ん……なん、スか?はっ、ごめ……髪、汚しちゃって」
火照る身体に心地いい水を、少し温かく調整してから、胸に凭れてくる身体をシャワーの下に引き込む。
(ここがシャワー室でよかったっスわ。マジで)
思いがけないご奉仕に、まだバクバクと騒ぐ心臓を落ち着かせようと、黄瀬は何度も深呼吸を繰り返した。