第3章 ロングバージョン
「あの……私、やっぱりシャワーを」と起き上がろうとして、ガクリとベッドに崩れ落ちる恋人をシーツでくるむと、黄瀬は全裸のままその軽い身体を抱き上げた。
「わっ!何……お、降ろして!」
「ナニ言ってんの。ろくに立てないくせに」
「ム、誰のせいだと思って」
「だから責任取ってキレイに洗ってあげるから……ちょ、結!暴れないの!」
激しい抵抗に耐えながらバスルームに運んだところで、呆気なく浴室から追い出されたイケメンモデルは、ニヤけた顔で肩をすくめた。
「そんな恥ずかしがんなくてもいいのに」
そう何度も拝めないであろう総大理石のバスルームで、たっぷりイチャイチャするというささやかな夢は、シャボンのように儚く消えた。
「……すみません」
「だから言ったのに。結はもっとオレに甘えたらいいんスよ」
浴室を出るなり、ぺたりと床に座りこむ恋人を腕に抱き、縮こまる身体をベッドに運びながら、黄瀬は濡れた黒髪に鼻先を押しつけた。
「ん〜いい匂い。オレも汗流してくるからベッドで大人しく待ってて。ね?」
「え、あ……ハイ」
乱れたシーツから視線を逸らすように、首にしがみつく腕が愛しくて。
「それとも延長戦突入する?まだ時間はたっぷりあるし、オレはOKなんスけど」
「そ、それは遠慮していただけないかと」
思わずこぼれた本音に、プルプルと頭を振る髪から飛び散る雫が、胸をじわりと濡らす。
「ハハ、そんな無茶するわけないっしょ。期待に添えなくて申し訳ないけど」
「期待なんかしてません!黄瀬さんの馬鹿っ!」
「ちょ、名前戻ってる!なんで!?」
あわてふためく姿は、ベッドの上の情熱的な姿とはまるで別人。
「……知りません」
「なんで赤くなってんの」
(まぁ、エッチの時だけの限定アイテムだと思えば……ウン、悪くないかも)
ポジティブに頭を切り替えると、黄瀬は結をベッドに降ろした。
「あ……の、そういえば、ベッドって」
「ん?あぁ、下にあったバスローブがちょっとアレだったけど片付けといたから。心配ないっスよ」
「な、何から何まで……すみません」
そう答えながら、黄瀬の慣れた様子と手際のよさに、結はうっすらと顔を曇らせた。