第3章 ロングバージョン
まだトクトクと早い鼓動を刻む胸の中、押し寄せる幸福感に結は身を震わせた。
ふわりと掛けられたシーツが火照る身体に心地いい。
「少し明かりつけるよ」
目の裏にかすかに感じる光に、重い瞼をそっと開ける。
「まぶし?あんま明るくしてないんスけど」
「ん……だいじょ、ぶ」
「カラダ、どう?平気……なワケないか」
頭を撫でる大きな手と、気遣うような優しい声。
まだぼんやりとかすむ視界の中、片肘をついて自分を見守る黄瀬の頬に、結はそろそろと腕を伸ばした。
その手を受け止めて、きゅっと握りしめてくれる指先が少し冷たい。
「りょー……」
「タオル持って来るから、ちょっと待ってて。それともシャワー浴びに行く?」
「……駄目、行かないで」
「結……」
「今はまだ、そばにいて……ン、っ」
モゾモゾと動いた結は、その顔をわずかに歪めた。
身体の奥にまだ何か埋まっているような鈍い痛みと、太腿を濡らす感触。
ベッドを汚してしまったんじゃないかという、ふいに頭をよぎる不安は、滑り込んできた腕に身体ごと包まれていた。
「ゴメン……やっぱ辛い、よね。オレ、優しくしようと思ってたのに」
額に触れる唇も、髪を梳く指先も、いつも以上に優しいのにどこか切なくて。
「あやまら、ないで」
伝えたい気持ちはたくさんあるのに、うまく言葉にできない自分に、もどかしさは募るばかり。
あふれだす涙は、身体に残る痛みのせいでも、ましてや後悔であるはずもない。
結は、目の前の広い胸にそっと頬を押し当てた。
「涼太……ありがと」
「っ」
「私、今すごく幸せ。初めて心から好きになった人と、こんな風に過ごせて嬉しい。だから……」
「……結」
声を詰まらせながら強く絡みつく腕に、結は身を委ねた。
「だから、もう謝らないで。ね?」
「……ウン、ごめん」
「ほら。また謝った」
「結がキスしてくれたら、もう謝んない……」
「真面目な声で、なに言ってるんですか」
背中をつねられて「イテテ」と情けない声を出す恋人の顔に、ようやく戻った太陽のような笑顔に胸が熱くなる。
「やっぱダメっスか」
「も、馬鹿……」
目を細めた拍子に頬を濡らす涙は、優しい唇に吸いとられた。