第3章 ロングバージョン
一点の曇りもないガラス窓に映るふたつの身体が、深く交りあう。
いつしか快感に溺れ、シーツを乱す恋人から離れることが出来ず、黄瀬は腰を揺らし続けた。
「結、気持ちイ?」
「あ、っん……また、お腹むずむず、して……なんか、きちゃう」
「ん。じゃ……肩に手、回して」
「……う、ん」
目の奥が熱くなる感覚に、奥歯を噛みしめる。
「結、一緒に……イこっか」
ゆるく抽迭を繰り返しながら、やわらかい肌に這わせた唇から漏れる余裕のない声に、想いの深さを知る。
まだ狭いながらも、彼のカタチに馴染みはじめた健気な身体を、黄瀬はスピードをあげて追いつめていった。
「く、っ、結」
「あ……涼、太っ、りょーた……ぁ」
激しさを増す突き上げに、振り落とされないよう縋りつく細い腕に、心が歓喜の声を上げる。
力なく宙を舞う足を抱えこみ、黄瀬は夢中で腰を振り続けた。
もう何度目か分からない絶頂の波を受けて、小さな爪が広い肩に赤い印を描き出す。
チリリとした痛みと、組み敷いた彼女の全てを奪いつくす快感に、背中が粟立つ。
「ひ、ゃん!奥、熱い……っ」
「イ、クっ、結、っ」
ゴールに向かって翔ぶように全神経が一点に集中する。
「ア、あぁぁあっ………!」「ん、くぅ……っ」
纒わりつく収縮に促されるまま、黄瀬は滾る熱を一気に解放した。
全力疾走後のような疲労感に、黄瀬は荒い呼吸のまま結の上に覆いかぶさった。
大きく波打つ背中にびっしりと浮かぶ汗が、情事の激しさを物語っている。
(こんな気持ちいいの初めて、かも。そっか、オレ……)
「結……結、大丈夫?」
まだヒクヒクと痙攣する肌を全身で感じながら、ゆっくりと繋がりをほどく。
「ひ……ぁん」
その声に、ふたたび熱を持ちはじめる正直な下半身に、黄瀬は思わず苦笑い。
全身を襲う虚脱感をあっさりと拭い去り、次の快楽を求める事は、若い肉体にとって正常な反応だ。
「んな可愛い声出したら、どーなるか」
甘い息をたよりに、たどり着いた小さな唇をカプリとひと咬み。
「ん」
「まぁ、今夜はこれで許してあげるけど」
かさつく唇をペロリと舐めて、次はないっスよとつぶやいた声は、幸か不幸か恋人の耳に届くとこはなかった。