第37章 ホーム
「もう!信じられません!」
「そう怒るなよ。ほんとに悪かったと思ってる。でも、結があんまり可愛くて、つい……イテっ!」
へらへらと笑う木吉の額を、結は指でビシッと弾いた。
夜が明けたばかりのバスルームで、何があったか思い出すのも憚られる。
さすがに二回戦までには至らなかったものの、宣言通り身体の隅々まで洗われた結の足は、完全に歩行能力を失っていた。
バスローブにくるまれて、木吉に運んでもらうのは何回目になるだろう。
その選択肢を選ばざるを得なかった結の機嫌はすこぶる悪い。
「その顔、全然反省してないですよね」
「ははは、どうかな」
交わす言葉にわずかな既視感。
「「前にも……」」
ぴたりと重なった言葉を前に、ふたりで顔を見合わせて小さく笑う。
「もしかして、進歩してないってことですか?」
「ふたりの時間はこれからもずっと続くんだ。ゆっくり進めばいいさ」
俺達なりにな、と言いながら、さりげなく仕掛けてくる甘いキス。
「甘いな、結の唇は」
「ム」
もともとストレートだった感情表現が、アメリカに来てさらにレベルを上げた気がする。
悔し紛れにうつむいた結は、自分の胸元に残る無数の赤い印に、バスローブの前をあわてて掻き合わせた。
「見える場所には付けてないぞ」と悪びれる様子もない木吉にベッドに横たえられて。
「今は……と、まだ6時か。チェックアウトまでかなり時間があるな。ギリギリまでゆっくりしよう」
隣に滑りこみ、当然のように抱きしめてくる木吉の身体を包むのはお揃いのバスローブ。
はだけた胸元から覗く、くっきりと浮かびあがる鎖骨と厚い胸板から漂うオトコの色香に眩暈がする。
この胸に抱かれたのだ。
匂い立つお揃いのソープの香りを胸いっぱいに吸い込むと、結はおずおずとその素肌に口を寄せた。
「おい、何して」と身をよじる木吉の胸に吸いつくが、その引き締まった身体には何の痕も残せない。
もう一度、とよせた唇は、大きな手に遮られてしまった。
「そんな煽るようなことするなよ。また欲しくなるだろ?」
「だって、木吉さんだけズルい……」
「狡いって何言ってるのか分からんが……そろそろ恋人らしく名前で呼んでくれないか?」