第37章 ホーム
「ふわぁ~」
それはムードをぶち壊す大きな欠伸。
「もしかして……寝てないんですか?」
寝たぞ、少しだがなと赤い目を擦る木吉から視線を外し、結は自分の身体を包むバスローブに目を落とした。
シャワーも浴びていないのにどこかスッキリした身体と、着た覚えのないバスローブ。
昨夜、あれだけ乱れたベッドと同じとは思えないくらいシャリ感のあるシーツも然り。
「も、しかして……か、身体拭いてくれたんですか?このバスローブもその時に?」
「心配するな。電気はちゃんと消したから、何も見てないぞ。ちょっと触ったけどな」
誇らしげな木吉に、ズキズキと痛む頭を抱えこむ。
「ちょっとって……は、恥ずかしいじゃないですか!」
「でも、あのままだと気持ち悪いだろ?しかし、ツインにした方がいいっていうアレックスのアドバイスは的確だった。後で礼を言わんといかんな」
ふたりで何の相談をしたのか、想像するのも恐ろしい。
あと二泊、アレックスからの攻撃を避けきれるだろうか。
「……アレックスさんに合わせる顔がありません」
「じゃあ、ずっと俺のそばにいるか?責任は持てないけどな」
強く抱きしめられた腕の中、密着する下半身から伝わってくるのは、すでに硬くはりつめた欲の象徴。
「え……嘘」
「おっと、悪い。だがこれは男の生理現象だから気にしないでくれ。さて、と……じゃあ、あらためてシャワーでも浴びに行くか」
にこりと笑う木吉の、爽やかな表情に背中が総毛立つ。
「な、何ですか。その黒い微笑みは」
「人聞きの悪いコト言うなよ」
わずかに上がる口角は、間違いない、何かを企てている時の顔だ。
「いえ。結構です」
「遠慮するなよ。責任取って隅々まで俺が洗ってやるから……な?」
額に押しつけられる唇に、対抗する手段を編み出すことは、今後の大きな課題になりそうだ。
「意外と強引……」
「そりゃ、ダテに鉄心なんて呼ばれてないからな」
ソレ関係ありますか、と不満を訴えた口は「その前に少しだけ」と重なる唇に封印されてしまった。
「……結」
名前を呼ぶ甘い囁きに促されるまま、そっと迎え入れた舌が熱く口内をかき乱す。
少しだけと言いながら、一向に離れる気配のないキスに溺れてしまわないように、結は目の前のたくましい首に縋りついた。