第37章 ホーム
天然なのか計算なのか、見極められないのが少し悔しい。
だが、しかめっ面の結を見た木吉の反応は、いつも通りに的を外したものだった。
「ん?どうした、変な顔して。ああ、腹へったのか?」
「違います」
「よし。メシにしよう」
「だから!人の話を聞いてくださ……て、木吉さん!」
抗議の声をあげる結の手を引いて、たどり着いたのは海岸近くのカジュアルなレストラン。
小さく頭を下げて扉をくぐる木吉の後に、渋々続く。
注文は任せてもらってもいいか、という言葉に無言で頷くと、木吉は片言ながらも慣れた様子でオーダーを済ませると「That's all.(以上で)」とウェイターに笑顔を見せた。
アンバランスなふたり連れに好奇心を抱いたらしい若いウェイターが、亜麻色の髪を揺らしながら発する早口の単語は、クセがあるのかほとんど聞き取れない。
(ネイティブな会話はやっぱり難しい……)
この場は貝になることを決め、その応対を木吉に任せていると、「Oh My God!(嘘だろ!)」と両手を天にむけた仕草で立ち去る後ろ姿は、まるでアメリカ映画のワンシーン。
「知り合い……ですか?」
「いや、初対面だ」
その答えはむしろ予想通り。
期待を裏切らない返事に、結はクスリと笑った。
「でも、絶対に誉めてないですよね?今の」
「ん?ああ、彼女は娘か?って聞くから、婚約者だと言ったんだが……そんな驚くようなことだったか?まあ、こっちの人間は何もかもリアクションが大きいからな。あまり気にしなくていいぞ」
ニコニコと目を細める木吉に、かける言葉が見つからない。
「そ、それは、一体ドコから突っ込めば……」
「突っ込まれるようなことは言ってないぞ。あ、もしかしてダジャレでも入ってたか?」
自分の言葉を反芻する木吉の顔は真剣そのもの。
「伊月がいれば、すぐに食い付いてくれたんだがな」
「……いえ、多分それはないかと」
(リコさんか日向さんがいたら良かったのに)
ツッコミ役がいない今、この場は……いや、この3日間は自力で乗り越えていくしかない。
「おお、旨そうだな」
運ばれてきた料理の味を堪能する余裕は跡形もなく消えていた。
豪快な量を次々に口に運ぶ木吉の顔を、結は恨めしそうにそっと見上げた。