第1章 ハニー
そんなチャラ男とガングロのじゃれあいを、体育館の隅から飽きることなく眺めていた結は、パタパタと近づいてくる足音に顔を向けた。
「結ちゃん!」
ロングヘアを軽やかに揺らしながら近づいてくる女性は、現在桐皇学園のマネージャーであり、あの青峰大輝の幼馴染みでもある桃井さつき。
「桃井さん!お久しぶりです!」
「ホントひさしぶり!元気だった?」
開花が待ち遠しい桜を彷彿とさせる美しくも儚い髪色に、結はうっすらと目を細めた。
「はい、おかげさまで。桃井さんは……元気そうですね」
「んふふ、そだね」と両校のエースを映す瞳が、優しくほころぶ。
かつてそうだった翳りのない笑顔を見せる幼馴染みに、桃井も嬉しさを隠せない様子だ。
彼女がいればきっと青峰は大丈夫。
そんな不思議な確信を胸に抱きながら、セットしたであろう髪を青峰にグチャグチャにされている黄瀬の子供のような表情に、結も目元を綻ばせた。
「ふたりとも楽しそう。特に青峰さんのあの笑顔……ピュア峰さん復活ですね」
「ぶはっ!結ちゃん、ピュア峰って何?」
彼には最も似合わないであろう形容詞に、盛大に噴き出した桃井は、キセキの世代と同級の高校一年生。
もともと可愛い顔は、笑った顔も変わらずに……いや、いつも以上に愛らしい。
スタイルも抜群のこの美少女が、最高の選手にも引けをとらない情報収集と分析に優れた参謀役だということを、初対面で信じる者はそう多くはないが。
「中学時代の青峰さん、すごくいい顔で笑ってた時があったでしょ。それ思い出しちゃって」
「確かにそうだけど……でも、ピュア峰って……く、ふふふ」
笑いが止まらずに肩を揺らす桃井に、やっぱり似合わないですね、と結はこぼれんばかりの笑みを返した。