第37章 ホーム
今回の訪米は3泊5日。
『ええ!?せっかくなんだから一ヶ月くらいいればいいのに!』
『リコさん。そんな無茶な……』
長い春休みとはいえ、課題をかかえた学生の身で長期滞在は難しく、また、資金面での問題もあった。
『ホテル代も馬鹿にならなくて……アレックスさんにお世話になるだけでも申し訳ないのに』
アルバイトで手にしたささやかな収入は、高額な専門書で羽のように飛んでいってしまうのは仕方ないとしても、今回のロサンゼルス行きを快諾してくれた両親に、これ以上の負担はかけたくはない。
じゃあうちに泊まれば?というアレックスの申し出に、結は甘えることにしたのだ。
『えっ!?水原さん、向こうでアレックスのうちに泊まるのかよ!……です。でもそれ、あんま長くならない方がいいかも』
『そう、なんですか?』
金髪美人のマニアックな癖を知らない結は、リコをはじめとする誠凛のメンバー達が火神の言葉にいっせいに頷く光景を、目を丸くして見つめた。
『木吉先輩、ああ見えて意外と嫉妬深そうだからな』
『それは、火神君が水原さんのことを……』
『黒子!テメェ、余計なコト言うんじゃねーよ!』
『ということで、誠凛のみんなは元気にしてます』
『あいつらは相変わらずだな。まあ、日程は仕方ないか……もう少し長く居られたら良かったけどな』
『すいません。これ以上の調整は厳しくて』
8時間の時差を越えて、ついつい長くなる国際電話。
『で、親父さんはどんな感じだ?』
『どんな感じって……何がですか?』
『いや……特に何もないならいいんだ、うん。別に、いいんだが』
はるか海の向こうでブツブツとひとりごとを繰り返す木吉に、結は寝そべったベッドの上で首を捻った。
『木吉さん?』
『ああ、悪い。ちょっと考え事を……もうすぐ会えるのかと思うと嬉しくてな』
『何ですか。その取って付けたような台詞』
結にはバレバレだな、と朗らかに笑う声にツキンと痛む胸。
(もうすぐ……もうすぐ会える)
『そ、そういえば昨日、おうちに行ってきましたよ。おふたりとも元気にしてますから、安心してくださいね』
彼の祖父母の近況を報告しながら、結は、汗がにじむ手のひらの中の携帯を、強く握りしめた。