第36章 アイテム
鼓動を上げる黄瀬の目が、袋の底に残る贈り物という名の禁断の品を捉えたのは偶然か必然か。
(こ、これは、もしかして!?)
震える手で取り出したそれは、イヤホンジャックのようなパーツ付きの猫の尻尾。
無駄な知識を持っている自分を、今日ほど恨んだことはない。
(桃っち!これはヤバいっしょ!オレにどーしろっていうんスか!)
頭に迷わず浮かぶ使用方法に、黄瀬の顔は真っ青に、そして次の瞬間、真っ赤に変わった。
「まだ何か入ってたんですか?」
「べっ、別にたいしたもんじゃないっスよ!」
不審な目を向けてくる彼女にあわてて背中を向けて、深呼吸。
「その動揺っぷり、気になります」
背後からジリジリと近付いてくる彼女から、フワリと漂う甘い香り。
「結……なんかいい匂い」
「何もつけてませんよ?」
肩越しに手元を覗きこんでくる黒髪に頬をくすぐられ、黄瀬の大きな身体はソファから数センチ飛び跳ねた。
手に握られているフサフサの長い尻尾に目を止めた彼女が、ぴたりと固まる気配。
「コレ……もしかして尻尾、ですか?」
彼女が、この手の知識に精通している可能性は、極めて低い。
黄瀬の鼓動は、今日一番の大きな音を立ててバクバクと高鳴った。
「ウン、そーみたいっスね……」
「か……」
「……か?」
黄瀬はダラダラと冷や汗を流しながら、その反応を待った。
「可愛いっ!」
「へ」
正面に回り込んだ結に、「見せてもらってもいいですか?」とねだられて、渡す手は無我の境地。
用途も知らず、まるで猫じゃらしのように揺らされるシッポに、黄瀬もつられて目を回した。
「でも、どうして黒猫?黄瀬さんなら犬耳だと思うんですけど……桃井さんの趣味なんでしょうか?」
でも可愛いから嬉しい、とはしゃぐ猫好きな彼女に、懸命に呼吸を整える。
「……ハハ、そーっスね」
桃井の意図するところはそうではなくて、きっと……いや間違いなくアレだろう。
(だってこれは、オレへの誕生日プレゼントなんだから)
決意と理性がガラガラと決壊する音が、脳内に響く。
「着けてもいいですか?」
カチューシャを付けようと金髪に伸びる腕を、そっと押し留める黄瀬の口許がニヤリと弧を描いた。
「結。コレはね、こうやって使うんスよ」