第36章 アイテム
「ご馳走さん!すげぇ美味かった!」
「良かった……」
ホッとした顔で、空になった食器を片付ける彼女の背中のリボンが、目の前を行ったり来たり。
ちょいと指で摘まめば、簡単にほどけてしまいそうだ。
(ダメだと思うから余計に変になるんスかね。誕生日なんだから、少しくらいは……)
シンクに立つ結の背後から、スルリと腰に腕を巻きつけて、密着する柔らかい身体を少しだけ味わう。
「き、黄瀬さん?」
ビクンと跳ねる華奢な肩を、クロスした腕で抱きしめると、黄瀬は頭のてっぺんにキスを落とした。
「いい奥さんになれそっスね」
「!?」
手から滑り落ちるお皿を間一髪のところで救出した黄瀬は、「へへ、ごめん」とペロリと舌を出して謝ると、真っ赤になった頬に唇を押しつけた。
「……っ!」
パクパクと言葉にならない声を発する結から、抗議の食器が飛んでくる前に、リビングへと逃亡を図る。
「先にちょっと休憩しないっスか?片付けは後で一緒にしよ。ほら、こっちおいで」
渋々といった顔でエプロンを脱ぐ結の姿を、黄瀬はソファの背もたれに顎を預けながら、わずかに細めた目でじっと見つめた。
桃井の去年のプレゼントは、エロ可愛くラッピングされた結自身。
(今年は……ま、まさかオモチャとかじゃないよな)
勿論それは『大人の』という形容詞付き。
わずかに期待値をあげる手のひらに、ジワリと汗。
電気の振動でよがる彼女を一度は見てみたいと思うのは、別に彼が変な属性を持っているからではない。
「その時は……写真、欲しいっスね」
「写真?何の、ですか?」
「……いや、なんでもないっス。コレ、なんだろね?」
持ち上げたショッキングピンクから聞こえる、鈴の音にふたりで顔を見合わせて。
「な、なんでしょう」
「ちょっとドキドキするっスね」
中に入れた手をくすぐるのは、ぬいぐるみのような手触り。
少しの失望感とともに取り出したそれを見る黄瀬の目が、驚きで丸くなる。
「なんスか……コレ?」
「わあ、可愛い猫耳!もふもふで気持ちいいっ!」
それは艶やかな黒の猫耳のカチューシャ……と、鈴のついた深紅のリボン。
ゴクリと生唾を飲み込む黄瀬の喉が、生き物のように上下に動いた。