第36章 アイテム
「黄瀬さん、足……」
「え、あ……イテっ!」
足の上に落ちたカバンからじわりと伝わる鈍い痛み。
黄瀬はあわててそれを拾い上げながら、チラチラと上目遣いで結を盗み見た。
「なんスか……そのエロいエプロン」
控えめなフリルがヒラヒラと、裾と肩ひもを縁取っている。
(新婚さんみたい……)
自分で自分の首を絞める感想のせいで、ズキンと更に疼きを増した下半身が、狭いスペースの中で暴れ出す。
「べっ、別に普通のエプロンですよ。これ着けないと、台所に入っちゃ駄目だってお母さんが言うから」
心の中で親指をグッと立てる。
(グッジョブ!……じゃなくて、どうして今日に限って、んなコトすんだよ)
「先にシャワー浴びますか?それともご飯にします?」
それとも ア・タ・シ?
ベタな妄想が鋭い刃となって彼を襲う。
「ぐはっ!」
黄瀬の足を、今日二度目のカバンが直撃。
「ちょっ、どうしたんですか!?」
「ハハ……今日の練習ハードだったから疲れてんのかも。先、シャワー浴びてくるっスわ」
「は、はい。いってらっしゃい」
ゴン!と壁に頭を打ち付ける音が、廊下に虚しく響いた。