第36章 アイテム
黄瀬涼太
18歳の誕生日は、学校も部活もいつも通りの土曜日。
午前中の授業を机の上で突っ伏して過ごし、温存したエネルギーは午後練にすべて注ぎこむ。
今年の夏こそ──
そんな熱気に満ちた体育館で、心地よい汗を仲間とともに流すエースかつキャプテンの表情は、日に日に引き締まっているように見えた。
「か、彼女さんがいることは知ってます!でも、受け取るだけでいいので、お願いします!」
誕生日プレゼントを持って押しかける女子は、例年に比べて少なくなったとはいえ、やはり教室や体育館に次々と現れた。
「気持ちは嬉しいんだけど、受け取ることは出来ないんスよ。ホントにごめんね」
そんなオンナのコ達に対して、黄瀬は真摯に向き合い、ひとりひとりに頭を下げた。
泣き出してしまった女の子に、わずかな罪悪感を抱きながら帰路につく。
だが、後悔はなかった。
(もう彼女のことしか考えられない。結しかいらない……)
黄瀬はくっと顎をあげると、駅までの道を速足で歩いた。
家に帰れば、彼女の手作りの夕飯がテーブルを飾っているはず。
先日の一件で、より家族との距離を埋めた結が、自宅で祝ってくれることになったのだ。
勿論、母親という名の監視付き。
もっとも、そのことは、自分に課した『セックス禁止令』とは関係ない。
カラダ目当てじゃないということを、一度アピールしておこうと思ったのだ。
この前、朝からガッついた反省の意味を込めて。
(玄関エッチ、萌えたっスけど……)
恥ずかしがる彼女を押し付けて、雨音に負けない音量でガタガタと鳴らした玄関の扉。
背徳感を上回る高揚感に、何度も燃えあがった朝だった。
そんな記憶が残る玄関先で、淡いピンクのエプロンを身に纏った恋人に出迎えられて、一気に元気になる下半身を責めるのは酷というものだ。