第34章 トラップ
「後悔、してたんです」
ぽつりぽつりと気持ちを整理しながら話す小さな背中を、黄瀬はあやすようにゆったりと撫でた。
(オレが動揺してる場合じゃない。冷静になれ。しっかり考えろ)
黄瀬は、自分の感情をコントロールしながら言葉を紡いだ。
「でもそれ、結のせいじゃないよね。なんでそこで自分を責めんの?結は悪くない、違う?」
「そう、なんですけど……でも」
どうして自分に落ち度があると思うのだろう。
彼女は完全に被害者だ。
(でも、結はあの時、あのオンナすら庇おうとしてたっけ)
「まあ、結らしい……ていえばそれまでなんだけど、なんか方向性間違ってない?」
「……え」
「そもそもの元凶はアイツらだ。結はそうやって自分を責めるけど、じゃあ、オレが迂闊に学校でキスしたことも原因のひとつだってことになんない?部外者が入り込んだという点では、それは完全に学校の落ち度だ」
些細なことが結末を変える。それが、故意であれ、偶然であれ、人生はそういう小さな積み重ねで出来上がっているのだ。
思考をめぐらせるような恋人の瞳を、黄瀬はまっすぐに見つめた。
「じゃ、笠松センパイや森山センパイに助けられたことは?あのふたりは結がオレのために呼んだんだよね?あれは……え、っと」
途切れた話の続きを待つように、首を傾ける彼女に向かって、黄瀬はバツが悪そうに呟いた。
「……元凶の反対って、何て言ったらいいんだっけ?」
キョトンとする幼い顔が、みるみる緩む。
「ぷ。言いたいことは、なんとなく伝わりましたけど……ふふ、なんか可笑しい」
薄れる緊張感が、いい意味でふたりの肩から力を抜く。
「あ〜せっかくいい感じだったのにな。オレ、勉強もっと頑張んなきゃ」
そうですね、と笑う彼女に笑顔を返し、黄瀬は威厳を取り戻すように咳払いをひとつ。
「じゃ、ちょっと視点を変えてひとつ質問。そのコはなんで昨日、体育館に来てたと思う?」
「どうして来た、か……ですか?」
「ウン。辛いかもしんないけど、考えてみて」
まっすぐに自分を見上げてくる瞳に向かって、力強く頷く。
(思い出させることは彼女にとって酷なことかもしれない。でも……)
記憶をたどるように目を閉じた結を、黄瀬はそっと見守った。