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【黒バス】今夜もアイシテル

第33章 サイン



左腕は彼女のための専用枕。

残る右手で小さな手を包みこむと、黄瀬は自分の頬に押しあてた。





この手に何度背中を押され、そして、何度引き留めてもらっただろう。

女性というものは、基本男が守るものだと思っていた。

だが、リアルに24時間そばにいることは、現実的に不可能だ。

そして、結は芯の強い女性だが、悩み事のひとつやふたつ抱えていてもおかしくない。

だからこそ、自分に何が出来るのか、今何をすべきなのかを見極める強さがほしい。

黄瀬は切にそう願った。





手のひらに思わずキス。

「や……、くすぐったい」

「まだ充電中だから、じっとして」

外から見たら怪しいくらいにベッドを軋ませて、布団に潜って、じゃれあって、ただ抱きあう。

(こんな時間も悪くないっスね)

額に落としたキスに「ひゃっ」と身を縮める恋人を、黄瀬は胸に深く抱きしめた。

「コラ。今日はエッチ出来ないんだから可愛い声はなしっスよ」

「あ、当たり前ですっ!」

どこか浮かない様子だった彼女が、元気よく暴れる腕を押さえこむ。

「あーもー、暴れないの。悪いコは口を塞いで襲っちゃうよ?それがイヤなら、おとなしくする」

ピタリと治まる暴動にくすりと笑いながら、黄瀬は枕元に伸ばした手で照明を落とした。

一瞬で暗闇に支配される部屋の中、指を絡めた髪から立ちのぼるお揃いの香りが、嗅覚を心地よく刺激する。

「今日は疲れたよね。もう、寝よっか」

「……はい」

居心地のいい場所を探すように、モソモソと動く頭が落ち着くのを待つ時間すら愛しくて。

かなりの重症だ。

(治すつもりはないけどね)

ふたり分の鼓動がリンクする中、ふいに香る吐息は爽やかなミント。

穏やかな眠りが訪れるように、祈りを込めた囁きを。

「おやすみ。結」

「おやすみ……なさい」

徐々に間隔が長くなる呼吸は、彼女が微睡みはじめた時の合図。

しっとりと手に馴染む髪を耳にかけた後、耳朶をいじるのはもう習慣になっていた。

そのまま指先で首筋をなぞり、首に漂う鎖に触れた瞬間、「りょ……た」とこぼれる寝言に、黄瀬は心の中でジタバタと暴れた。

(ちょっ!結構オレ頑張って耐えてんのに!)

声にならない悲鳴をあげると、音を立ててこぼれ落ちる理性の欠片を、黄瀬は必死で拾い集めた。



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