第3章 ロングバージョン
「黄瀬さ、ん。お願い、電気を……」
お互いの唇をひとしきり貪った後、ふたたびバスローブに滑り込もうとする手を押し止めて、懇願するその声は震えていた。
「了解」
黄瀬は、男なら当たり前に抱く欲望をあっさりと放棄すると、枕元のダイヤルを最小に絞った。
目盛りがOFFに届かなかったのは、完全には拭いきれない願望のなごりか。
「コレでい?もうほとんど見えないっスよ。だから」
「ひゃ、っ」
緊張から身を固くする彼女をなだめるように、黄瀬はその首筋にゆっくりと顔をうずめた。
湿り気を含む髪から、なめらかな肌から、嗅覚をくすぐるお揃いの香りが、オトコの欲情を高めていく。
反対に結は、荒い息で肌を愛撫する彼にどう応えたらいいのか分からずに、ピクピクと反応する細い足でベッドを乱していった。
「んっ、黄、瀬さ……んん、アっ」
「……結、っ」
余裕のない自分の声に煽られるまま、黄瀬はバスローブの前を少し乱暴に押し広げると、胸元に鼻を擦りつけた。
「や、ぁ」
「ココまできて、それはもう効かないっスよ」
肩を押し返そうとする手を、冷たいシーツに縫い付ける腕は優しいのに力強い。
暗闇の中、さぐるように鎖骨を辿る鋭い歯の感触に、結はきゅっと枕の端を握りしめた。
「っ、んぁ」
艶を増す声を聞きながら、なだらかな傾斜の頂を目指した唇は、肌を覆う下着の存在にその動きを止めた。
(あ、れ?もしかして着けてる……ブラ)
「なんか、結らしいっスね」
「……え、何?」
「ん?いや、どんなエロい下着か暗くて拝めないのは残念だけど、それはそれで色々と妄想が掻き立てられる、って話?」
「へ、ヘンタイ反対っ!」
あ、これダジャレじゃ、と一瞬意識を逸らせた結は「その変態にこれから抱かれるのは、誰っスか?」と問う唇に耳朶を噛まれて、ビクンと腰を揺らした。
「っンぁ……ん」
「耳、感じんの?」とからかうような声が、さらに耳をなぶっていく。
「分かん……な、い。でも、なんか変……ひゃ、っ」
ぬるりと差し込まれた舌で、ダイレクトに響くピチャピチャという音に聴覚を乱されて、枕を掴む手に力が入る。
「やっ、それ……黄瀬さ、ん……ヤダっ」
「ね、結。そろそろ名前、呼んで欲しいんスけど」