第3章 ロングバージョン
バスローブを脱がせながら肩を滑る唇が、その動きを不自然にとめる。
「こ、れ……」
肌に刻まれたピンク色の筋に目を留めて、黄瀬はその顔をわずかに歪めた。
「っ」
声にならない息を洩らして、肩を咄嗟に隠す彼女にチクリと胸が痛む。
よく見なければ分からないほどの傷痕も、年頃の女の子にはどれほど辛いだろう。
配慮に欠けていた自分を黄瀬は責めた。
「……ゴメン」
「知ってるって、顔ですね」
「ウ、ン」
いつか、結の父から聞いたことをかいつまんで説明すると、黄瀬は叱られた犬みたいにしゅんと項垂れた。
「そんな顔しないでください。父がどんな風に話したか知りませんけど、私このキズ嫌いじゃないんですよ」
「……え」
「だって、ほら。これは私の勲章ですから」
夢中になれるものに出逢えた奇跡。
試合で負けて仲間と大泣きしたことや、勝利した時の高揚感。
「その全てが、ココにあるんです。黄瀬さんなら分かるでしょ?」と穏やかに話す彼女はとても綺麗だった。
あらためて知る、小さな身体に秘められた芯の強さと直向きな心。
(オレ……彼女のこと、これからもっともっと好きになっていく気がする)
全部知りたい、彼女のことを
自分のモノにしたい、彼女のすべてを
熱を帯びる視線を浴びて、結は複雑な表情を浮かべると、その目を僅かに伏せた。
「でも、やっぱり好きな人には、キズのない綺麗な身体を見せたかったかな……なんて。馬鹿ですね、私」
「!」
横を向く頬が赤く染まる。
「……んな可愛いコト、どんな顔で言ってんの?よく見せてよ」
「き、黄瀬さんこそ、何恥ずかしいことサラッと言って……」
「見せて、もっと。全部オレに」
顔中に落ちる優しい唇に、たまらず吐息がこぼれ落ちる。
「ふ、ぁ」
「よく知りもしないで、あの時はホントごめん」
泣き出しそうな声で肩に顔をうずめる黄瀬の髪を、結はあやすように優しくなでた。
「黄瀬さんは何も悪くない……だから、謝らないでください。でも、あんな無茶はもうしないで、ね?」
「……ウン」
ゆっくりと顔を上げた黄瀬の頬に、お返しとばかりに唇を寄せる。
「結……」
ふわりと笑みを交わし、自然に近づくふたりの唇は、互いの傷を癒すように深く重なり合った。