第31章 チェンジ!
同じ電車に揺られて、同じ駅に向かうこの短い時間が、ふたりきりになれる唯一の瞬間。
「差し入れ、ご馳走さん。でも、あんなたくさん重かったっしょ?これからは家まで迎えに行くから、前もって教えてよ」
「前もって教えて……って、それは私の台詞です」
新しい髪型にまだ慣れないのか、いきなり驚かせたことが不満なのか、少し距離を置こうとする彼女に心も顔も緩みまくりだ。
昨日デート出来なかった代わりに、ゆっくり休みを取った身体は確かに楽になっていた。
(結の言う通り、やっぱ疲れが溜まってたんだろーな)
気分転換にと出掛けた先で、行きつけの美容室の近くを通りかかったのも、髪をいつもより短く切ったのもほんの気まぐれだったが、おかげで今日は愉快な姿をたくさん見せてもらった。
まだ機嫌の直らない様子の恋人に見つからないように、口の端で笑いながら、黄瀬は短くなった髪を満足そうにかき上げた。
「ちょっとしたサプライズっスよ。それにしても……予想以上の反応だったな」
「ナンのコトですか」
とぼけた時の棒読みの台詞。
好きすぎて疲れも吹き飛ぶ瞬間だ。
「そういえば、今日何か揉めてましたね」
「ん?あぁ、アレね。大丈夫、問題ないっスよ」
「心配してたわけじゃありませんよ。黄瀬キャプテン?」
ふわりと微笑む瞳に笑みを返しながら、ふと頭をよぎるのは真剣なふたつの瞳。
一人前のオトコの目をして抗議してくる後輩の言葉を、嬉しく思ったことは嘘ではなかった。
(不思議だよな。あんなコト言われて、少し前のオレだったらきっと……)
こんなにも心穏やかでいられるのは、他でもない彼女のおかげだ。
嫉妬心に駆られて、酷い愛し方をしてしまった自分を許すどころか受け入れてくれた。
あの後、つぐなうように触れた肌は泣きたくなるくらいに優しくて、『涼太』と繰り返し名前を呼んで抱きしめてくれる彼女に、いったい何度溺れただろう。