第31章 チェンジ!
(そろそろ、っスかね)
車窓を流れていく見慣れた景色をぼんやりと目で追いながら、次の駅の到着を待つ。
他線との乗り入れがある駅のホームは、今日も変わらず多くの乗客で溢れかえっていた。
『扉が開きます。ご注意ください』
機械的なアナウンスの後、開いた扉から降りた人数以上に次々と乗り込んでくる人の群れは、数少ない好機のひとつ。
「混んできたね。結、こっち」
渋々、近寄ってくる小さな肩を引き寄せると、黄瀬は肩先で波打つ黒髪に指を絡めた。
「ね、今日はなんで髪おろしてんの?めずらしいっスね」
一番上までキッチリ止められているボタンの意味も知っているのは自分だけ。
スルリとうなじに忍ばせた指先で、まだ残っているはずのキスマークを思い出させるようになぞると、またしても期待以上の反応を見せる肩に、ひっそりと笑う。
「ム。誰のせいだと思って」
「ただの虫除けっスよ。まぁ、よそ見させるような愛し方はしてないけど」
「!?」
発車の揺れも重なり、ガクンと崩れる身体を支えて、これ幸いと胸の奥に閉じ込める。
何度触れても、何度抱きしめても、少年のように高鳴る鼓動と、胸を刺すかすかな痛みは、これからも消えることはないのだろう。
ゆっくりと目を閉じた黄瀬の長い睫毛が、物憂げに揺れた。
「ね、あの人背高〜い。ほら、扉のとこにいる人」
「ホント!絶対イケメンだよ、アレ。背中で分かるって」
(アレって……失礼っスよ、キミ達)
混雑するのが分かっていて敢えて選んだ扉に腕をついて、彼女だけのスペースを作りながら、黄瀬はずっと自慢でしかなかった自分の容姿を少しだけ恨んだ。
「だいじょーぶ?狭くない?」
「黄瀬さんこそ大丈夫ですか?疲れてるんだから、無理しないで下さいね」
こうやって目で見えるものから守ることは簡単だ。
だが、果たして心まで守れているのだろうか。
「結、今日……さ」
何と言えばいいのだろう。
『オンナのコ達に意地悪されてるの、オレのせいだよね。ゴメン』
(違う。そうじゃない)
「今日、ですか?」
詰まった言葉の先を引き継がれて、胸がザワザワと騒ぎ出す。
後輩にはあんな風に偉そうに言ったくせに、心の底では怖くてたまらないのだ。
自分のせいで彼女が傷付くことが
彼女が離れていってしまうことが