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【黒バス】今夜もアイシテル

第31章 チェンジ!



予告編なしに始まった映画のオープニングのように、視線は彼ひとりに釘付けだ。

(これって……なんの、罠?)

スッとした眉を凛々しく見せる短めの前髪と、全体的に毛先を遊ばせたラフなヘアスタイル。

それは、少年のような、成熟した大人のような、不思議な魅力を醸し出していた。

これから訪れる夏を早くも予感させるようにスッキリとした襟足が、たくましい首から肩のラインを惜しげもなく晒していて、その悩ましいラインに軽く意識が飛ぶ。

「ど?今まで結から感想とかあんま聞けたことないけど、似合ってるっスか?」

ツイと顔を近づけてくる黄瀬の自慢の金髪が、チカチカと目にまぶしい。

「え、っと……」

「ん〜?」

「に……似合って、ます……凄く、格好いいデス」

「へ」

トロけた瞳に射貫かれて、今度は黄瀬の心臓がその活動を停止する。

髪に触ろうとするかのように伸びてくる手に戸惑い、黄瀬はバランスを崩して派手にしりもちをついた。

それは、まるで赤司のアンクルブレイク。

「イテっ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

差し出してくれる小さな手をキュッと握りしめながら、黄瀬は見事に返り討ちにあったことを理解した。

「やっぱ、結には敵わないっスわ」

「何言って……完全に私の負けじゃないですか。悔しいけど」

頬を染めて口を尖らせる可愛らしい表情は、思いがけず手にした戦利品だろうか。

「へへ」

だが、とびきりの笑顔を浮かべたせいで、立ち上がろうとした手を振りほどかれた黄瀬は、今日二度目のコートに沈むはめになった。

「ちょ、いきなり離すなんてヒドいっス!」

「そこ。夫婦漫才やめろって」

大きな身体を揺らしながら近づいてくるのは、海常のセンターを守る三年生、澤田一樹。

「妬かない妬かない。澤田っち」

「め、夫婦……!?」

コートに寝転んだまま、一目散に逃げていく背中をニヤニヤと眺める主将に向かって、いくつものボールが容赦なく飛び交う。

「ちょっ、皆ゴメン!謝るから……ギャーー!!」





特別扱いはいけないと頭では理解していても、つい目で追ってしまうのは恋する乙女の本能だ。

ノートを取る手がしばし止まり、ドリンクボトルを盛大にぶちまけるマネージャーのめずらしい姿に、黄瀬をはじめとする部員達の笑い声が絶えない一日となった。




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