第31章 チェンジ!
「おはようございます」
いつもの日曜日に、いつもの体育館。
今日は気温が上がるでしょう、と朝から笑顔を浮かべるお天気お姉さんの予想通り、見上げた空には雲ひとつない青空が広がっていた。
「はよーっす」
「水原さん、おはようございます!」
「今日はすごい荷物ですね。運ぶの手伝いましょうか?」
「すいません。助かります」
身体がまだ暑さに慣れていないこの時期は、熱中症に注意が必要だ。海常のハードな練習にまだ慣れていない一年生達は特に。
大量に作った差し入れを詰めたカバンを、結は入口にゆっくりと下ろした。
「あ、オレやるから」
遠くから聞こえてくる涼しげな声は、鼓膜をくすぐるただひとつの声。
結は緩みそうになる頬を懸命に引き上げた。
「おはよ」
キュキュッと軽やかに近づくバッシュの音を聞きながら、体育館用の靴に履き替えて顔をあげた結は、視界に映る恋人の姿に目を見開いた。
「おはよう、ござ、い……ま、す」
途切れ途切れの声を発しつつ、そのまま横を通りすぎようとした結は、いったい何事かと言わんばかりの腕に引き止められて、ノロノロと顔を上げた。
「ちょ、結。何スルーしてるんスか?おはようのチューしてなんて言わないけどさ……て、聞いてる?」
目の焦点があっていないマネージャー兼恋人を心配して、「どーしたんスか?どっか具合でも」と前髪をかきあげる手が額に触れて、頬に集まる熱の意味を見抜かれるのは必然。
「あー……なるほど、ね」
口許を手の甲で隠しながら、身を屈める長身の恋人に視線まで拘束される。
「さすがに頭丸める訳にはいかなかったんで、ちょーっとだけ大胆に短くしてみたんスけど……どーかな?」
こないだの反省の意味を込めてね、と艶っぽくささやく唇と、先日の熱を思い出させるようなイタズラな瞳。
「は、反省って、ナニ、言って……」
反省ではない、それは一発退場ものの反則行為だ。
そんな苦情の言葉すら喉に絡まって出てこない。
「聞いてません。こんな……こんなの」
形のいい頭をサラリと覆っていた金髪は、未だかつてないほどのショートヘアに大変身。
不意打ちの攻撃に胸を撃ち抜かれ、結はここが体育館であることも忘れ、頭上の笑顔をうっとりと見つめた。