第3章 ロングバージョン
「ソレ、どーいう意味か分かって言ってる?」
「た、多分……」
多分ってなんスかと苦笑混じりの吐息が、結のつむじを柔らかく揺らす。
「結、オレを見て」
「は、い……」
そろそろと顔を上げた結の瞳に映るのは、オレンジの照明の下で蜂蜜色に染まる金の髪。
「……綺麗」
髪に触れようと無意識に伸ばした指先は、ハァという溜め息とともに黄瀬に捕獲されて、そのまま彼の口許へと導かれた。
「そんな顔されたらさ、マジで帰してあげられなくなるんスけど」
「そんなって……ひゃ、っ」
指先を軽く噛まれて、思わず引っ込めようとする手を、黄瀬が逃すはずもない。
「オレが好きでたまらないって顔。さっきも見せてくれたけど」
「あ、あれは……」
「隣で聞いてたオレがどんなに嬉しかったか、一晩かけて教えてあげよっか?」
「……っ」
挑戦的な瞳に射貫かれてふらついた身体は、力強い腕に抱きすくめられて。
「ね……ホントにいいの?無理してないならオレ、遠慮しないよ」
いつもよりトーンの低い声に、結は意を決したようにコクリと頷いた。
「……結」
髪に
頬に
鼻先に
降り注ぐ触れるだけのくちづけ。
「ん、くすぐったい……」
「コラ。逃げない」
身を捩る結の唇をそっと塞ぐと、黄瀬はその決意を確かめるように優しいキスを繰り返した。
「ん、ふ……っ」
そのままジリジリと追い詰められて、足にぶつかるのはダブルベッド。
「ちょっ……ま、待っ、て」
「ん?もうギブっスか?」
「そう、じゃなくて……ん、先にシャワー、を」
「ダメっスよ。この可愛いワンピ脱がせんの、スッゲー楽しみにして……イデデデっ!耳、引っ張んないで!降参っ、降参だってば!」
「真面目な声で、バ、馬鹿なこと言わないでくださいっ!」
両手を上げる黄瀬を振り払うと、結はバタバタと浴室に駆け込んだ。
「ハ、覚悟決めたくせに……ホントに、もう」
その後ろ姿を見送って、ひとりベッドにダイブした黄瀬は、弾力のあるマットをゴロゴロと一回転。
「お!さすがに老舗のホテルだけあって、寝心地は最高っスね」
真っ白な枕を引き寄せて胸に抱き込んだその顔は、だらしなく緩みきっていた。