第30章 トリガー
今吉が直々に連れていくと言うところを、長い交渉の末に思い留まらせ、通話を終えた桃井は汗だくだった。
『危ない、危ない。結ちゃんを誘拐されるとこだった』
長い髪をひとつにまとめると、桃井はすぐに当人に電話をかけた。
『お願い、結ちゃん!今度の日曜日、何も聞かずに私と付き合ってください!』
いきなりの告白、びっくりしちゃいましたと笑う結と一緒に桃井が向かった場所は、都内にあるスタイリッシュなビル。
『ああ、聞いてますよ。見学の方ですね』
手回しの良さにぐうの音も出ない。
スムーズに受付をすませて向かった一室は、華やかなファッション雑誌には似つかわしくない雑然としたスタジオだった。
『桃井さん。やっぱり私、こういうのはちょっと……』
『ごめん!でも、ほんのちょっとだけでいいから。きーちゃんのモデル姿……全く興味ないわけじゃない、よね?』
『ぐ』
地面を蛇のように這う無数のコードのはるか先、明るく照らされたステージの上にはひときわ目を引くふたつの人影。
最近その活動を減らしていた黄瀬の、それはまさに撮影の真っ最中だった。
『すごい……』
冥界の王のような存在感を漂わせる男性と、その隣で彼に劣らない輝きを放つオーラに目を奪われる。
影の薄い同級生を連想させる、さわやかな水色のシャツ。
(うわぁ、テツくんの髪の色だ……じゃなくて!)
流れるようにポーズを決めるモデル黄瀬涼太は、桃井でも思わず見とれるほどに格好よかった。