第3章 ロングバージョン
「ちょっと待っ、待ってください!どうして黄瀬さんが……いや、一体いつから居たんですか?も、もしかして」
「ん〜?久しぶりだね、って辺りから?」
「それ、最初からじゃ」
(ふたりに……というか、悠にまんまとヤラれた)
「いやぁ、楽しかったっスわ」
ダラダラと汗をかく結の隣で、黄瀬は爽やかに微笑んだ。
先程のイケメン店員が、自分よりレベルの高い黄瀬を直立不動で見送る中、スマートなエスコートで店を出た結は、「ハイ、これ着て」と広げられた上着に渋々手を通した。
(も、カッコ良すぎ……ズルい)
「じゃ、行こっか」
ニットの上にさらりと羽織ったチェスターコートに、細身のパンツを合わせるセンスの良さはさすがというべきか。
その立ち姿は、高校生とは思えない大人の色香を漂わせて、様になるというレベルを遥かに越えていた。
さっきから何人の女性が、惚けた顔で振り返って彼に視線を送っていることだろう。
「晩ゴハンにはまだ早いし、映画でも観るっスか?」
「え?でも、今日は……」
頬を刺す二月の空気の下、するりと絡まってくる指だけがポカポカと温かい。
「お友達のことは心配しなくても大丈夫っスよ。夜は、美味しいイタリアンの店とかどうスか?」
「美味しいイタリアン……ハッ」
慌てて口を塞いだが、時すでに遅し。
黄瀬は顔を背けて、肩をぷるぷると震わせていた。
「も、ホント、結は色々とダダ漏れっスね。さっきも……」
「さ、さぁ!映画行きましょうか、映画!」
その言葉を遮るように歩き出した結は、繋いだ手を強く引かれて彼の胸に閉じこめられていた。
「んな慌てなくても、映画もオレも逃げないっスよ。てか、今日はめずらしく膝出しちゃって」
「こ、これは、あの、その」
「そんな顔したら……ここでキス、するよ?」
「!?」
からかうように近付く彼の金髪が、冷たい頬をサラリと掠める。
「何照れてんの、もう」
キスなら何度もしたっしょ?と耳に息を吹き込まれて、結は繋いだ手をキツく握りしめた。
「ハハ、かわい」
「……っ」
映画を見ている間も離されることのない指先に意識を支配されて、スクリーンに写し出される内容は頭に少しも入って来なかった。