第23章 ガーディアン
放心状態の女を森山に任せると、三人は体育館に戻った。
事情を聞いた武内は、大きなお腹の上で腕を組みながら「黄瀬。家まで責任持って送って来い」と厳しい顔で命令した。
「か、監督!私は大丈夫です!今から試合もあるのに、そんな……」
「スンマセン。後はよろしくお願いします」
「黄瀬さんっ!」
深々と頭を下げた後、暴れる肩を抱いて出ていく後ろ姿がいつもより大きく見える。
元主将と監督は、苦笑しながらもふたりを優しく見送った。
固く手を繋いだまま到着した結の家。
うまく鍵を差しこめないでいる手を、大きな手が包みこんだ。
「貸して」
「……すみません」
ガチャリと開いた扉の向こう、いつもなら姿をみせる猫も今日は不在なのか、寒々しい玄関で黄瀬は再び彼女の手をとった。
「この時間じゃ、さすがに誰もいない……か。隣にお母さんいるなら呼んでこよっか?」
「大丈夫、です。それより……本当にごめんなさい、練習試合」
まだ青い顔をして謝る姿が痛々しい。
「なんで結が謝んの?」
「私が悪いんです。黄瀬さんは何も悪くない……だから」
「結?」
「これからはちゃんと気をつけるから、何があっても怖くない……だからお願い、そばに居させて。離れるなんて言わないで……ン、っ」
めずらしく取り乱す彼女の言葉を遮るように、黄瀬はその唇を勢いよく塞いだ。
「ん、ぅ」
肩から滑り落ちたカバンが乾いた音を立てる。
唇をそっと解いた黄瀬は、呼吸を乱す結の頬を両手で優しく包みこんだ。
「オレには結だけ。離すわけないっしょ、こんなに好きなのに」
「ホント、に?……嬉しい」
ふわりと笑った瞳に浮かぶ涙に、ズキリと反応する欲情の証。
(こんな時に、何サカってんだよ……ったく)
「私も、大好き……」
期せずして首に巻きついてくる細い腕が、全身の血を沸騰させる。
学校で軽率な行為をしたばかりに、彼女を危険な目にあわせてしまった。
自分がすべきことはくだらない嫉妬ではなく、腕の中のかよわい存在をいかに守るか考えること。
だが今は……今だけは、激情のまま彼女を抱きたくてたまらない。
「部屋、連れてくよ?」
了解の返事を聞くことなく、黄瀬は結の身体を軽々と抱き上げた。