第23章 ガーディアン
「結……怪我は?何もされてない?」
小さな手に自分の手を重ねて、強く握りしめた黄瀬の表情は、誰も見たことがないくらいに強ばっていた。
「大丈夫です。私は大丈夫……だからお願い、落ち着いてください」
「ごめん、オレの……オレのせいだよね」
悲痛な声が辺りに響く。
項垂れる黄瀬の様子に、笠松はほっと安堵の溜め息を漏らした。
「森山、もう大丈夫だ。離してやれ」
「そう……だな」
制止の腕から解放された黄瀬は、目の前の身体を迷わず抱きしめた。
「黄瀬さ、ん」
「っ、……結」
笠松も森山も、今回ばかりはそれを咎めることもせず沈黙を貫くなか、ただひとり顔を歪めた女が忌々しげに叫んだ。
「ア、アンタが悪いんじゃん!なんでアンタみたいな女が、リョータの隣にいんのよ!」
悪態をつく醜い姿。
ピクリと肩を震わせる結を守るように、黄瀬は抱きしめる腕に力を込めた。
「黙れ」
冷ややかに見下ろされて、女は目に涙を浮かべながらも言葉を絞り出した。
「この前もそうやってイチャついてたから、私ムカついて……ちょっと脅すつもりで」
その言葉に唯一関心をいだいたのだろう。
だが、ちらりと女を見る瞳は氷のように冷たかった。
「この前、って何のことだよ」
「バ、バレンタインの日。チョコ渡そうと思ってわざわざ学校まで来たのに……」
黄瀬は眉を一瞬顰めた後、軽く鼻を鳴らして言い放った。
「ハ!なんだ、覗いてたのかよ……悪趣味だな。でも、それじゃ分かっただろ?もうオレにつきまとうのやめてくんない?」
「っ、黄瀬さん!そんな言い方……」
こんな目にあったのに、どうして庇うのか。
こんなオンナにかける情けなど、どうすれば持てるというのか。
(ま、だからこそ……なんスけどね)
「二度と、二度とオレの女に手を出すな。今日は彼女に免じて許してやる。でも、二度目はないと思え」
「リョー、タ……」
たくましい腕に抱きしめられながら、結は言葉をなくす彼女に心の中で何度も謝った。
(ごめんなさい、ごめんなさい。でも……)
硬い胸板に押しつけた頬から伝わる速い鼓動と、怒りに震える低い声。
こんな時なのに幸せを感じる自分にわずかな罪悪感を覚えながら、結は青いジャージに縋りついた。