第23章 ガーディアン
「今日はよろしくっス」
「こちらこそ。あの海常と練習試合ができるなんて光栄だよ。だが、うちも勝つつもりで来てるんで」
不敵に笑う相手校のキャプテンとガッチリ握手を交わす。
「望むところっスよ」
真剣勝負特有の、張りつめた空気が心地いい。
海常に到着した相手校のアップも始まり、にわかに活気づく体育館で、武内からの指示を聞きながら、黄瀬はキョロキョロと辺りを見回した。
(アレ?結は何処いったんスかね……)
「黄瀬!オマエちゃんと聞いてんのか!?」
「ス、スンマセンっ!」
ペコリと下げた頭を戻した瞬間、携帯を耳にあてた笠松が、森山に声をかけながら体育館の外に出ていく様子がその広い視野に飛びこんでくる。
試合前だというのに、姿を見せない彼女に感じる妙な胸騒ぎ。
監督の指示が、右から左にすり抜けていく。
「全く……、水原がいないとお前は使い物にならんな」
「監督!ヒドイっスよ!」
「もういい、時間の無駄だ。先に水原を探してこい」
「ハイっ!」
笑顔で敬礼をするポーズに黄色い歓声が上がる。
武内は、無精髭をザリザリと太い指で撫でると、渋い顔で溜め息をついた。
試合開始まであと30分。
「確か、さっきドリンク持って外に……」
体育館の外を覗こうとした黄瀬を一斉に取り囲むのは、応援に駆けつけた女子生徒達。
「黄瀬クン、お疲れさまっ!」
「コレ差し入れ!良かったら食べてね」
「今日の練習試合、頑張って!応援してるから」
「え……っと。あ、ありがとっス」
ぐいぐいと押し付けられる差し入れを上の空で受け取りながらも、「ちょっとゴメン。通してくれる?」と黄瀬は包囲網を泳ぐようにかきわけた。