第23章 ガーディアン
栗色のストレートヘアに、遠目でも分かる派手なメイク。
短いスカートからスラリと伸びた足を包む、ブーツのエナメルの黒が鈍い光を放つ。
男達に劣らず整った顔とその大人びた雰囲気は、一見すると結より年上にしか見えなかった。
「一応女の子なんだからさ、痛いのは可哀想じゃね?」
「俺達優しいから、そんなコトしないから安心してよ。でもその代わり、恥ずかしい写真でも頂いちゃおっかな?ね、どう?」と笑う声に肌が粟立つ。
一人がポケットから出した折りたたみ式のナイフが、春先の日差しを反射してギラリと光る。
背筋を流れ落ちるひとすじの冷たい汗。
足の震えには気づかないふりをして、結は地面を強く踏みしめた。
(弱さを見せたら相手の思うツボ……)
黄瀬にとっていま一番大切なのは、バスケットボールと海常の仲間達。
それ以外のことで、彼を煩わせることは絶対に出来ない。
(彼のコトは、何があっても守ってみせる)
大きく息を吐きながらギュッと拳を握りしめる。
手のひらに食い込む爪の鈍い痛みで、クリアになった意識の中、結は全神経を集中させた。
「…………」
「アレ、怖くて声も出ないのかな〜?たまには趣旨を変えて、お子サマをいたぶるのも楽しいかもしんないぜ」
「そーだな、せっかくの日曜日にこんなトコまで来たんだし。せいぜい楽しませてもらわねぇとな」
『オレ以外のヤツに指一本でも触れさせたら……』
こんな非常事態にもかかわらず、耳によみがえる彼の声が不思議なくらいに気持ちを落ち着かせてくれる。
彼以外の誰かに触れられるなんて、自分でも耐えらない。
(意外と冷静だな、私)
そっと閉じた瞼の裏にくっきりと浮かぶのは、愛しい人の大好きな笑顔。
結はゆっくりと開いた目で男達を見据えると、今度は大きく息を吸いこんだ。
「そのナイフで一体何ができるの?」
奮いたたせるように発した声は、自分でも驚くくらい毅然としたものだった。
「な、なんだ。コイツ」
あくまでも脅す手段であって、本気で刺す度胸など微塵もないのだろう。
意味もなく光るそれに恐怖はもう感じない。
ナイフに向かって一歩近づく結の静かな威圧感にはじかれるように、男がジリッと後ずさった。