第3章 ロングバージョン
インターハイ準決勝後の黄瀬と衝突したのは、もう半年以上前のこと。
ふたりのあまりにも険悪な雰囲気に、体育館が静まり返ってしまったほどだった。
『アイツがあんな風に感情を爆発させるなんてな。多分、あの頃から水原には気を許してたってことじゃねーか』
笠松がそう振り返るあの日の出来事が、ひとつのターニングポイントだったことは間違いない。
その後、彼の満たされない想いや、バスケに対しての嘘偽りのない情熱を知り
新しい仲間達と共に成長していく姿に少しずつ触れて
黄瀬涼太というひとりの男性に、強く惹かれていく自分を止めることは出来なかった。
太陽のように眩しい笑顔と、光を纏ったように輝く金色の髪。
子供っぽい表情を見せたかと思うと、その魅惑的な瞳で周囲を一瞬で惹きつけていくオーラは、彼にしか作り出せないものだった。
『どうしたらいいのか……ホント分からないんだ』
軽薄そうな容姿には不似合いな真摯な告白。
『だいじょーぶ、安心して』
たくましい腕からもたらされる優しい抱擁と、心に沁みていく不思議な安堵感。
『結』と鼓膜を揺らす声は蜂蜜のように甘く、『もっと』と熱を帯びていく唇はどこまでも優しくて──
「……会、いたい」
こんなにも全身を埋めつくしている彼の存在に、今更ながら愕然とする。
と同時に胸をジワジワと覆い尽くすのは、彼への深い恋心。
「結?」
(今すぐ会いたい、彼に……)
ズキンと痛む胸を押さえた小さな手に、一粒のしずくがこぼれ落ちた。
「っ……どうしよう」
「結、アンタ泣いて」
「好、き。こんな、に……彼が」
「馬鹿だね」と言いつつも背中を撫でてくれる手は優しくて。
結はその温もりに甘えるように、悠の肩に凭れかかった。
「もっと素直になんなきゃ。好きな気持ちは、黙ってても伝わんないよ?」
「う、ん……ありがと。ちゃんと伝えて、みる」
「よし!今日はこれくらいで許してあげる。でも、お楽しみはこれからだからね。多分、アッチも限界だと思うし」
「……お楽しみって、チョコの話?」
鼻を啜りながら顔をあげた結に、悠はイタズラっぽく目を細めてフフンと笑いかけた。