第3章 ロングバージョン
「ところでさ」
遠慮を知らない瞳が目前に迫り、結は嫌な予感に身を震わせた。
「な、何……?」
「結は彼のどこを好きになったの?まだヤッてないんなら、カラダの相性ってわけでも無いんだろうし」
ズバズバと投げ込まれる直球に、結はゆっくりと味わおうとしたコーヒーを、思わずごくりと飲み込んだ。
「熱……っ」
「見た目はパーフェクトなんだけどさ、どう考えても結が好きになるタイプじゃないんだよね」
今世紀最大のミステリーかも、とテーブルに頬杖をつきながら、悠は「ほら」と水の入ったコップを差し出した。
「ごほ……っん、あ、ありがと」
で?と諦める様子を見せない友人に、結は氷の減ったコップを揺らしながら、首を大きく傾けた。
「どこって言われても………う〜ん、ドコだろ?」
「ちょっ、結!あんなイケメン彼氏になんて事を!けしからん!実にけしからん!」
「何、その往年の俳優みたいな台詞。別に……顔で好きになったわけじゃないんだって」
モチロン……今は顔も好きだけど、とボソボソとした呟きは口の中で儚く消えていく。
「ま、そりゃそうか。結は顔で釣られるタイプじゃないし」
「うん……自分でもビックリ。だって、彼の第一印象は最悪だった訳だし」
「は?」
悠のすっとんきょうな声に、小さく笑みをこぼしながらも、結は彼と初めて会った時の印象をポツポツと語りはじめた。
「スポーツマンらしからぬ金髪に片耳ピアス。確かに顔は──だったけど、女の子に囲まれて、ニヤけた笑顔をこれでもかと振りまいている、チャラチャラした軽い男。こんなとこかな?」
「ぐ、ゴホッ。じゅ、充分でございます……」
急に饒舌になった結の口から放たれるのは、なんとも辛辣な内容ばかり。
「まだあるよ?聞きたい」と前のめりになる結に向かって、悠は大きく首を振った。
「イヤイヤ、もう結構デス。あ~、そうじゃなくてさ、彼の良いところが聞きたいんだけど」
「いい、トコロ………?」
「そうそう、彼のこーいうとこが好き!みたいな?」
結の眉間に刻まれていた深い皺が、ゆっくりとほどけていく。
「……そんなの簡単に言葉に出来ないよ」