第22章 ギフト
「ねぇってば!」
無言で校門へ向かう結の周りを、グルグルと回る黄瀬の姿は、まさにご主人様にまとわりつくゴールデンレトリバー。
「そろそろ機嫌なおしてよ。今日はバレンタインなんだからさ、あれくらいいいじゃないスか」
「あ、あれくらいって……」
呼吸も奪い尽くすような激しいキスと、巧みな舌づかい。
立っていられなくなるほどの濃厚なキスに翻弄されて、その場に崩れ落ちた結の機嫌はいまだに直っていなかった。
(ズルい。学校であんなキスするなんて)
「でも、結も気持ち良かったっしょ?あんな可愛い顔しちゃってさ」
「お疲れさまでした」
棒読みの台詞を残し、くるりと背中を向けた結の後を、追いかける黄瀬の足音が静まり返った校舎に反射する。
「ちょっ!結、待ってってば!」
人の気配が完全に消えた校門を無事に抜けて、ふたりは帰路についていた。
結局、一回では持ち帰れない量にふくれあがったチョコは、部室の片隅にひっそりと置かれたまま。
(チョコに罪はないんスけどね。ホントごめん)
海常のロゴが入ったエナメルバッグを肩にかけた黄瀬の手には、大切そうに握りしめられた唯一無二の贈り物。
「結からの初めての手作りチョコ……くぅ~、食べるの楽しみっス!」
「すいません。去年は、結局手作りできなかった、か、ら……」
自分で言い出しておきながら、一年前のあの日を思い出したのか、その顔が真っ赤に染まる。
暗がりでも分かるその変化に、黄瀬は唇の端でひっそりと笑った。
「ナニ思い出してんの?」
「べっ、別に……何も」
「またまた照れちゃって〜」
道の真ん中で肩を抱こうとする長い腕を、結はスルリと華麗にかわした。
「お、なかなかのディフェンス。去年はフラフラだったのが嘘みたいっスね」
「もう!それ、返してください!」
「嫌っスよ!結のハジメテは全部オレが貰うんだから!このチョコも、キスもバージ……もがっ」
「バ、馬鹿ですか!」
あわてて口を押さえた手は、待ち構えていたような黄瀬の指に絡めとられて。
「捕まえた」
「ズルい……んっ」
あっという間に引き寄せられて、結は今日何度目になるか分からないキスを受け入れざるを得なかった。