第22章 ギフト
好きという幸せな気持ちの裏に、確実に存在する嫉妬や独占欲。
そして、恐怖。
「もっとキスしてい?てか、するけど」
胸のモヤモヤを消し去るように黄瀬に求められて、溢れだす想いが頬を濡らす。
「ね、結……なんで泣いてんの?」
目尻にチュッと音を立てる優しいキスに、さらに溢れそうになる涙を必死でこらえる。
「……どうして、でしょうね?」
「なんスか?それ」
やわらかな声に前髪を揺らされて、結は耐えきれずに彼の身体にしがみついた。
「ナニ、どうしたんスか?」
「……好き」
ピクリと動きをとめた黄瀬の唇が「ホント、に?」と小さく動く。
それ以上言葉にならずに、コクコクと頷く結の髪を、長い指がクルクルと弄ぶ。
「じゃ、確認させてもらおっかな」
身を屈めた黄瀬のピアスの輝きを目に映しながら、結は距離をつめてくる綺麗な顔をうっとりと見つめた。
「涼、太……好き。大好き」
「オレのが好きっスけどね」
再び重なった唇が、お互いの気持ちを確かめ合うように深く混じり合う。
「もっ、と……涼、た」
「ン、結……ハッ」
貪るようなキスに全身を支配されて、自らも求めようと小さく背伸びをした次の瞬間。
その場に似つかわしくない軽快な音が、ふたりを引き離すように鳴り響いた。
『撃退完了!
気をつけて帰れよ』
間の悪すぎるメールや電話はお約束。
「だから……タイミング悪すぎだっての」
肩を落とす黄瀬に、結は曖昧に笑ってみせた。
あのまま彼のキスを受け入れ続けていたら、どうなっていたか自分でも分からない。
少しだけ残念に思ったことは、悔しいから内緒にしておこう。
「か、帰りましょうか」
「まだダメっスよ」
「え……」
目の前に迫る甘いマスクに瞬きすら奪われて。
「あと、もうちょっとだけ……」
天使のようにキレイな顔の、悪魔のような囁き。
あと少しという言葉とは裏腹に、熱を帯びる黄瀬の唇は、いつまで経っても結を解放しようとはしなかった。