第22章 ギフト
たどり着いた家の前でふたりは、別れを惜しむように指を深く絡めた。
「送ってくれて、有難うございました」
「ウ、ン……」
澄んだ空気の中で、互いの瞳に灯る熱の名残りを確かめ合う。
ここが何処なのかということも忘れて、ふたつのシルエットがスローモーションのように重なろうとしたその時。
「結?」
ガチャリという音と共に、玄関からひょっこり顔を覗かせたのは、結の兄、翔だった。
「連絡があったのになかなか帰ってこねーから、おふくろが様子を見に行けって……なんだ、黄瀬も一緒か」
あわてて手を離し、不自然な距離で立つふたりを見つめる瞳に、黄瀬は心臓をバクバクと鳴らした。
邪魔が入るのは今日、何回目だろう。
だが、海常バスケ部の大先輩であり、やや妹想いが過ぎるとはいえ、大切な彼女の兄の前で、黄瀬は背筋をピンと伸ばした。
「ど、どーもっス!今日もいい天気っスね!」
空にポッカリと浮かぶキレイな月。
やましい気持ちを自ら暴露するようなそのあわてっぷりに、結は黄瀬の隣で溜め息をついた。
「……馬鹿」
「おう、いい天気だな。結を送ってくれたのか?せっかくだから、ちょっと上がっていけよ」
「へ」「え?」
黄瀬にはいつも厳しい態度をとる翔の満面の笑みに、特別怪しい影は見当たらない。
何かの罠、という訳でもなさそうだ。
「寒かっただろ?ほら、早く入れよ。海常の大事なキャプテンに風邪ひかれたら困んだろーが」
茶髪を翻して家の中に入っていくご機嫌すぎる背中を、黄瀬と結は丸い目をして見送った。
「ぷっ、何かいいコトあったみたいっスね」
「分かりやすい兄で……ホントお恥ずかしいデス」
頭を下げる結の顎にすっと添えられた長い指が、当然の権利を主張するように顔を上に向かせる。
「さすが兄妹。そっくりっスわ」
「それ褒めてませんよね?」
「ハハ、どーかな」
月を覆い隠す雲が、チョコより甘いキスを交わす恋人達の姿を、ひっそりと闇に包みこんだ。
end