第22章 ギフト
二月の大学は本格的な入試体制に入り、後期試験を終えた学生はすでに春休みという状態だ。
その時間を使い何度もトライしたが、結のチョコレート作りは困難を極めた。
(お菓子作りはやっぱり苦手……)
試行錯誤の末、なんとか焼き上げたブラウニー。
甘いものが得意ではない彼のために、結が生まれて初めて作った本命チョコだ。
『早く会いたい、な』
心の声がこぼれていることにも気づかないまま、膝で丸まって気持ち良さそうに寝ている愛猫を起こさないように、結はソファで大きく背伸びした。
その時、後ろからフワリとかけられたのは、高校を卒業する年に母からプレゼントされたマフラーだった。
『え?』
上を見上げたその視界に映る母の笑顔は、カシミアの肌触りよりも優しい。
『今日は翔も遅くなるって言ってたわよ。シスコン気味の兄のことは気にしないで、ゆっくりしてらっしゃい』
緩んだ顔を見られないように、マフラーをぐるりと巻きつける。
『……うん、ありがと。じゃあ、ちょっと行ってきます』
彼のために用意したプレゼントをカバンにつめこむと、結は家を飛び出した。
たどり着いた海常高校の正門で、わらわらと群がる女子の姿に、足を凍らせることになるとは夢にも思わずに。
──キセキの世代
十年にひとりと言われる逸材達は、学生バスケットボール界を盛り上げる貴重な存在でもあった。
その中でも黄瀬のような選手は、いい意味での広告塔として、ファッション雑誌以外の表紙を華々しく飾る機会が確実に増えていた。
ウィンターカップ期間中も、たびたび特集が組まれたことが、今日のような事態を引き起こした原因のひとつだろう。
髪色のように明るい性格と、太陽のように眩しい笑顔。
街を歩けば誰もが振り返ってしまうほどのルックス。
活動が減っているとはいえ、未だにモデルとして抜群の知名度を誇る彼が、ファンの女の子達を大切にすべきだということも割り切っているつもりだった。
頭では理解しているはずだったのに。
(嘘、こんな……に?)
同性から見ても可愛いらしくてスタイルのいい女の子達に、さすがの結も平静ではいられなかった。
(どうしよう……もし、彼が他のコを好きになったら)